常田大希のヴィジョンを考察 MILLENNIUM PARADE改名の背景、新章の狙い
2023年2~3月、ロサンゼルスとロンドンに滞在
まず、少し時系列を整理する。ストリーミング上のmillennium paradeの表記が「ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ」という、一見するとヒエログリフのようにも見える文字列(実際には「彝文字(いもじ)」という、中国雲南省、四川省、貴州省、広西チワン族自治区などに住むイ族の言語の表記に使われる文字のようだが、ここでの使い方は表音文字に近いと思う)に置き換わり始めたのは、4月20日を過ぎた頃。狙ったのか偶然なのかはわからないけど、ちょうどKing Gnuのアジアツアーが終わった直後くらいからだったと思う。そこからコアファンの間ではザワザワとバズが広がっていったのだけど、4月26日くらいから鬼化したアーティストビジュアルと公式サイトへのリンクが貼られた謎のSNS広告が登場。誘われるままに公式サイトに飛ぶと、タッチパネルの操作次第で「ARE YOU READY INTO DREAM?」「夢に入る準備はできている?」という文字列が浮かび上がる仕様になっていた(そこからYES / NOを選択し~等あったのだけど、説明が長くなるので割愛させていただきます)。ここまで来るといよいよ「近いうちに何か大きな発表があるのではないか」という予感が確信に変わり、millennium paradeがトレンド入りするなど、SNS上もどんどん盛り上がっていった。 そもそも2021年2月にアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』をドロップし、同年10月、東京ガーデンシアター3デイズ&大阪フェスティバルホール2デイズという形で開催した「millennium parade Live 2021 “THE MILLENNIUM PARADE”」を終えた後、常田はSNSに「ここから潜伏期間に入ります。また第二形態でお会いしましょ」とポストしていた。実際、そこから今に至るまでの約2年半の間、2022年5月に『攻殻機動隊SAC_2045』のOP&EDテーマとして「Secret Ceremony」と「No Time to Cast Anchor」、そして2023年4月に椎名林檎とのコラボレーションによる「W●RK」と「2○45」という計4曲をドロップしているものの、millennium paradeとしてのライブやメディア露出などの表立った活動は、一切していない。 その間に常田は、King Gnuとして数々のタイアップ楽曲からアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』までの制作をやり遂げ、2022年11月の初の東京ドーム2デイズ、2023年5~6月の初のスタジアムツアー、そして2024年1月からつい最近まで行われていた初の5大ドームツアーからの初のアジアツアー(こうして書き出してみると本当に怒涛である)と、極めて精力的に動き続けてきたので、「単純にKing Gnuが忙しかったから、millennium paradeは潜伏期間という名のお休みに入っていたんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。むしろ、彼がいかに大きな才を持っていようが身体はひとつなわけだから、そう思うほうが普通の感覚のような気もするけれど、実はまったくそんなことはない。ミレパのSNSアカウントに「Transforming...」という表示がなされたのは今年の1月に入ってからだったように記憶しているけれど、現実には、少なくとも2022年の夏前にはすでに、ミレパを第二形態へとトランスフォームさせるべく、水面化で具体的なアクションに入っていたと思われる。 その動きがドラスティックなものになったのは2023年。この年の2月から3月にかけて、常田は約1カ月にわたってロサンゼルスとロンドンに滞在し、様々なアーティストを現地のスタジオに招いて楽曲制作を行なっている。帰国直後に筆者は常田にインタビューをしたのだが、その一部をここに引用しよう。 「最初は向こうのアーティストに呼ばれたというか、コラボレーションしたいって言われて行くことになったんですけど。でもどうせ行くんだったらそれだけじゃなく、ちょっと長期で行って、いろんなアーティストとやってみたいなと思って。それで結果、1カ月くらいLAとロンドンで制作することになりましたね。現地ではそれこそ10アーティストくらいとセッションしたんだけど」 ■まだ名前は明かせないけど、かなりバラエティ豊かな、かつ、錚々たるメンツと制作していましたよね。常田くんって、海外で制作すること自体も今回が初めてなんでしたっけ? 「そう。というか、そもそもこうやって人とセッションして作るってこと自体も初めてだから」 ■そっか。いつもは自分でデモを作り上げて、そこからメンバーに展開してアレンジを詰めていくっていう形ですもんね。 「だからマジで初めての経験っていう感じでしたね。完全に新人のノリ。シュウとコータ(millennium paradeのメンバーでもある佐々木集と森洸大)も一緒に行って、みんなで共同生活をして、みたいな旅だったんですけど」 ■事前準備として相当な数のデモを作った上で現地に向かった、と聞いたんですが。 「うん。人生で一番作ったかも」 ■それくらい気合いが入っていたということ? 「もちろん。未経験の領域だったから、できる準備はして臨みたかったので。だけどそんな予想通りには何もかも全然進まなかったですね」 ~中略~ 「そもそも日本で作っているものとは、内容的にかなり違うものだから。むしろ20歳くらいの自分に近い感じ。要は、邦楽にそこまでハマる前の音楽的な価値観に特化して作ってる。そういう意味でも、また一から新人として臨んでるっていう感覚はあるかも。その中で、そういう自分がここがいいんだよねって思うポイントが、実際にしっかり向こうのアーティストにも伝わるという経験ができたことは、俺にとって大事なことだったかもしれないなと思いますね。それこそ、ここからの10年への道が見えた」 ■つまり、日本のポップミュージックを意識して曲を作るのではなくて、そもそも自分が惹かれたアートとしての音楽、その実験性や革新性にちゃんと挑んでいく楽曲を作るんだという、その初心に戻るみたいなこと? 「そうだね、完全にそうだった」 (MUSICA2023年5月号・表紙巻頭特集より)