ニッチだが奥深い「映像伝送」の歴史 コンピュータ・グラフィックスからIP伝送まで
本連載の前回では、プロフェッショナル向けの映像信号の変遷をまとめた。今回はコンピュータ画像の伝送(録画)とIP伝送についてまとめてみる。 【画像を見る】ニッチだが奥深い「映像伝送の歴史」を見ていこう インターネットが一般的ではなかった時代だと、CG映像はコンピュータディスプレイ上に存在しても利用価値があまりなく、ビデオ信号化することで初めてテレビや映画で利用できた。 これには2つの方法があった。1つは、コンピュータディスプレイ用の信号を横取りする形でビデオ信号に変換する方法、もう1つは映像信号入出力I/Oボードを経由して、コンピュータディスプレイとは別系統で映像信号のやりとりする方法だ。後者はのちに、ノンリニア編集システムとして広く普及することになる。 コンピュータディスプレイへの伝送方法として長く使われたのが、VGAだ。解像度が640×480なので、アナログビデオとの親和性は良かったが、アナログRGB出力の60Pである。一方アナログビデオは640×480のコンポジット60iなので、ボックス型のスキャンレートコンバーターが必要であった。 基本的にこうしたスキャンコンバーターは、コンピュータ画面をブラウン管テレビモニターに投影するためのものであり、これをVTRに録画して利用するのはかなり困難であった。そもそも当時のPCとは、VGAサイズであってもフル画面かつリアルタイムで映像を再生する事ができない。従って、PC側で1枚の静止画を読み出してはVTRで5秒ほど録画するということを繰り返したのち、録画した5秒から1フレームずつ編集でつないでいくという、気の遠くなる作業が必要であった。 ただ、こうした変なことが得意なコンピュータが「Amiga」であった。解像度をQVGAぐらいに落としてメモリへため込み、キーボードにアサインしてポン出しする「Elan Performer」というソフトウェアがあり、これと安価なスキャンコンバーターを組み合わせることでコマ編集することなく動画の状態で書き出せた。出力できるのは数秒だが、1コマずつ録画するよりは全然早い。1990年代初頭「ウゴウゴルーガ」などテレビで一斉を風靡したローファイなCGは、ほとんどがこうしたスキャンコンバーターによる出力で録画されている。 実はこの時代、コンピュータとビデオの間では大きなハードルがある。前回ご紹介した通り、90年代にはすでにテレビ映像はデジタル化の時代を迎えており、フルデジタルの編集室が主力であった。ところがCGの世界は、ディスプレイへの伝送がまだアナログだったため、映像出力もアナログが主力であった。映像業界にとっては、コンピュータはアナログ映像機器だったわけである。 コンピュータ内でも、動画ファイルフォーマットとしてQuickTimeが登場したのは91年だったが、とても放送に耐えられるような画質ではなかったことから、CGは静止画の連番ファイルで出力・管理されるのが普通だった。 レンダリングが完了した1コマずつの出力を、RC-232Cで制御可能な外部のレコーダーにコマ撮りしていくことで動画にしてゆく。当時、メモリベースのデジタルレコーダーは数千万円であったが、デジタルディスクレコーダーのAbekas「A-62」はメモリレコーダーよりもはるかに廉価で、人気となった。