すぐ裸になる踊り子にお飾りの経営者…「ストリップを取り締まる警察」と「儲けたい劇場」の壮絶な「いたちごっこ」
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第36回 『楽屋に警察が入ってきて…「全見せ上等」の伝説のストリッパーを悩ませた「公然わいせつ罪」と「衝撃の逮捕劇」』より続く
「他の子には負けられない」
「特出し」が登場した当初、陰部を見せるのを嫌がる踊り子も多かった。劇場の支配人は手練手管で踊り子のパンティを脱がせた。大阪で劇場を経営し、一条の面倒もみた中谷陽は自著で、当時の支配人の「腕」を、こんなふうに紹介している。 〈支配人が、「ちょっと頼んまっせ。祝儀つける」と踊り子に依頼する。当然、踊り子は逮捕が心配である。「大丈夫?」と聞く。支配人は、「大丈夫。ちゃんとしておくさかい」と言って安心させる〉 「ちゃんとしておく」というのは、逮捕されないように警察に手を打ち、万が一逮捕されても、保釈金などは劇場で用意するという意味だった。 しばらくすると、トリの踊り子は必ず、「特出し」をするようになる。一条もトリを務め、その責任を感じていく。 「売れ出すと大変です。自分自身、やらなきゃいけないっていう気持ちが強くなります。他の子には負けられへんから」
見せないとお客さんが満足しない
一条の人気が高まるに従い、他の踊り子も負けじと大胆になる。次々と陰部を見せる芸で客席が盛り上がるのを舞台袖から見ながら、一条は「あんなことまでされたら、あたしのやることないやないの」とイライラする。それほど踊り子たちは大胆になっていく。 他のダンサーがあまりにも派手に踊るため、それに満足して、トリを待たずに席を立つ客も出る。 「お客さんが立って、後ろのドアが開くと、『あっ、帰っちゃう』って悔しくってね。でも、そういうことを経験し、ステージ根性ができます。それがないと、裸になんてなれへん。誰にも負けたくないって思っていました」 踊りはともかく、脱ぎっぷりでは負けていられないという気持ちがサービスをどんどんエスカレートさせる。すると、客や劇場はますます激しい脱ぎっぷりを期待する。裸の魔力に取り付かれた男たちは、以前のようにちらりと見えただけでは満足しない。踊り子が生き残るには、その期待に応えるしかない。行き着く先として、警察権力の介入があった。