小田慶子の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 ドラマの解像度が上がらなかった2023年
2.『コタツがない家』
“私でしかない”主人公が出てくる、「こんなドラマ初めて~!」と叫んだ共感度200%の作品。万里江(小池栄子)が息子(作間龍斗)に「頼むから指定校推薦で大学に行ってくれ」と懇願するシーンに本気で泣いた。その息子が推薦の面接で「親の敷いたレールを歩いていたらここにいただけ」とイキって怒りに震えた。うちの息子もやりかねない。夫の稼ぎは当てにならないし、老いた父は暴走するばかり。これは、私たち、家計と家族のケアをダブルで担う女性の物語だ。小池が言った夫のグチを脚本の金子茂樹が反映しただけあり、令和版『肝っ玉かあさん』としてリアルだった。向田邦子のような作劇術にも拍手。
3.『連続ドラマW フェンス』
本作でデビューした宮本エリアナの演技が不器用すぎてドキドキ。それが沖縄で起こる性暴力を描く本作ではかえってリアルに感じられた。脚本の野木亜紀子らの思いが詰まった物語は、オピニオンが前に出すぎているところもあったが、ヨーロッパと中東で悲惨な戦闘が起こり、私たちはアメリカの核の傘の下にいるから平和に過ごせているんだと実感せざるをえない今、その平和の代わりに差し出されたものを描き、本質を鋭く突いていた。
4.『大奥』
実写化は気合だ! 私は原作ガチ勢だが、誰がこの壮大な男女逆転版『大奥』を結末まで映像化できると思っただろうか。それを「やる」と決意した制作陣は、『風の谷のナウシカ』を完全歌舞伎化した尾上菊之助に並ぶ暴挙&快挙だ。配役も天才。感慨深かったのは、福士蒼汰の脱皮。取材中に「役者になるべくして生まれてきた人を相手にすると、僕はどうしたらいいんだろうなって……」と人生相談されたこともあったけれど、いまや君こそ本物の役者だ。鈴木杏や仲間由紀恵の快演にも圧倒された。
5.『離婚しようよ』
まさかクドカン(宮藤官九郎)と大石静が組む日が来るとは……と驚きつつイッキ見。仲里依紗演じるヒロインの不倫相手(錦戸亮)が不能で、「そうか、クドカンがこだわってきた『童貞』という設定は50歳を過ぎて『不能』になったんだ!」と激しく納得。『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)では童貞役の松坂桃李が二の腕フェチの浮気男という振り幅も面白かった。ただ、Netflix配信作であるものの、制作したTBSとの違いは感じられず、完全にTBSドラマとして楽しんでしまった。