中日ドラ3勝野をプロ初勝利に導いた“魔球”と度胸
最速148キロのストレートに2段モーションからフォークとスライダーを混ぜ込む。ボールに角度をつける典型的オーバースローで球種は少ないが腕の振りが同じだから打者が狙い球に困る。さらに厄介なのが、メジャーで主流の“動くボール“だ。 勝野のストレートは打者の手元で微妙にカットして、ことごとくバットの芯を外していく。2回に一死一、二塁のピンチを迎えたが、中村をその“魔球”の罠にはめて二ゴロ併殺打に打ち取っている。 「少し変化するボールとフォーシーム。両方を使っている。あれがいい形になるね」と与田監督も絶賛した。 綺麗な回転のフォーシームとカット回転のムービングファストボールをミックスされ、しかも初顔合わせとなるとプロでも対処するのは難しい。 この日はアクシデントも乗り越えた。プロ初登板の巨人戦に続いてコンビを組んだ松井雅が足を痛めて2回の裏からベンチに退き、加藤に交代となったのだ。普通の新人ならリズムが狂ってもおかしくなかったが、動揺を見せることもなかった。その度胸、本物である。 岐阜の土岐商時代は、中日と競合の末、ソフトバンクが1位指名した岐阜商の高橋純平の影に隠れた存在だったが、ストレートは、140キロ後半が出ていて中日スカウトが追跡していた。注目を浴びたのは三菱重工名古屋入社の1年目。負けたら終わりの都市対抗の第6代表決定トーナメントに先発起用されると期待に応え、本番でも信越硬式野球クラブを相手に好投、プロアマ混合のU-23侍ジャパンに選ばれた。優勝したメキシコでのワールドカップにも出場している。 3年目はチームを日本選手権優勝に導きMVPに輝くが、勝負所で物怖じすることなく結果を出す度胸と、社会人時代から“動く”“重い”と評判だったストレートには、プロで成功する素養があった。 ドラフトではスーパールーキーの根尾にばかり注目が集まったが、地元名古屋の即戦力投手を中日スカウト陣はしっかりと押さえていたのである。 笠原らの計算していたローテー投手を故障で欠き、“やりくり”は楽ではないが、与田監督は、中日の未来を考えて躊躇することなく勝野を先発に抜擢した。すでに2年目の清水も2勝。若手の力でピンチをチャンスに変えようとする与田監督の大胆な決断と信念こそが“新生中日”がファンに支持される理由だろう。 すでに家庭を持ち昨年末に長女も誕生した頼もしいルーキーは、ウイニングボールを「両親に渡します」と笑い「次も全力投球でチームを勝たせる、そういうことを意識して頑張ります」と誓った。 次の登板予定は、31日の巨人戦。“魔球”と度胸で、しっかりとリベンジを果たしてくれそうな予感がする。