「優しくスッと心に入ってくる」必殺シリーズ取材、高鳥都さんが語る火野正平さんの魅力
14日に75歳で死去した俳優の火野正平さんは、代表作の一つとなったテレビ時代劇「必殺」シリーズで、快活な立ち振る舞いや必死に江戸の街中を走り回る姿などが視聴者を魅了した。同シリーズをテーマにした著書『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(立東舎)の取材で昨年、火野さんを取材したライターの高鳥都さんは、優しさを持ち、スッと人の心に入ってくるような人だったと振り返る。 【写真】所属事務所が公開した草木で彩られた火野さんの祭壇写真 ■軽さやナチュラルも計算 ──火野さんの演技の特徴は 「役に憑依(ひょうい)するというよりは、火野正平そのもののパーソナリティに役を引き付けるようなタイプ。そのやり方で、それぞれの役柄を魅力的に演じ分けていた。必殺シリーズの場合、子役時代から京都映画の撮影所に出入りしてスタッフに可愛がられており、まるで自分の家のようにリラックスして演技できたのかもしれない」 「演技は感性のままに見えて、実は緻密。『新必殺仕置人』(昭和52年)の監督を務めた高坂光幸さんは『あいつ嘘つきなんですよ』と、私のインタビューで語っていた。いい加減なようで、軽さやナチュラルさも計算されていた」 〈火野さんは必殺シリーズで3作にレギュラー出演した。最初に登場した「新必殺仕置人」は今もファンが多い。山﨑努さんが演じる念仏の鉄や藤田まことさん演じる中村主水(もんど)らが、夜の闇に紛れながら、市井の人の恨みを晴らしていく。火野さんは、直接手は下さずに情報収集を担当する正八(しょうはち)を演じた〉 ──正八の魅力は 「火野さん本人を思わせるキャラクターだ。時代劇にはある種の格式、堅苦しさが付き物だが、そういうものから自由な役で、アドリブも多かった。暗い話になりがちなテーマのドラマの中で、正八の明るさがアクセントになっていた」 ──悪人を始末する仕置人ではなかったが、正八も人気があった 「鉄や主水は前作(必殺仕置人、48年)にも登場しており、感情を抑えられるプロの殺し屋。一方で正八は青臭く、情にあつく、視聴者が感情移入できる人物として描かれていた。絶対にかなわないような相手にも立ち向かう硬骨漢でもあった」 「特に、過酷な運命に陥った幼なじみのために正八が捨て身の行動に出る『代役無用』(第17話)はシリーズ屈指の傑作だと思う。この話では火野さんが劇中歌『想い出は風の中』を披露した。高坂監督が自ら作詞し、火野さんの飲み仲間がギターを弾いたという手作りのエピソードがある。これと『夢想無用』(第30話)、『愛情無用』(第40話)を合わせて、ファンは正八3部作と呼んでいる」