<北陸新幹線>沿線小駅「飯山」の奮闘 選ぶ旅を提案
伝統文化と自然を生かした提案
そのスポットの一つ「高橋まゆみ人形館」。飯山駅から歩いて20分ほどの街なかにあり、新幹線飯山駅の開業もあっていつにも増してのにぎわいです。作者の高橋まゆみさんの在館日には50~60台収容する計3か所の駐車場も埋まります。同館副支配人の高橋三奈子さんは「新幹線開業で北陸など県外の遠方から来館する方が増えました」。 長野市出身で飯山市に嫁いだ後、人形制作に打ち込み、人形館開設以前の7年間にわたり全国で作品の巡回展を続けた高橋まゆみさんのファンは「全国区」。作品に接してホッとした表情を見せる人、涙ぐむ人も多く、日本の農村の原点ともいえる風景と、おじいちゃん、おばあちゃん、いたずらっ子などを表現した作品はファンを放しません。「来館して“(作品に)会いに来ましたよ”という方が多いのですよ」と高橋副支配人。地元にとっても、人形館は新幹線開業でこれまで以上に期待される存在になりつつあります。
そして菜の花畑は、人形館から車で10分ほどの千曲川沿いにある「菜の花公園」。800万本といわれる菜の花の畑が続き、5月の連休中に催された恒例の「いいやま菜の花まつり」がにぎわいました。唱歌「朧月夜(おぼろづきよ)」のモチーフとなった地ともいわれ、飯山駅開業後は遠方からの観光客も目立ちます。 豊かな自然を生かしたアウトドアの提案も重視。その象徴が信州いいやま観光局がJR飯山駅構内で運営する「信越自然郷アクティビティセンター」です。サイクリングやトレッキングなどのプランを提案し、駅へ降りた旅行者はその場で自転車や雨具などの装備をレンタルできます。サイクリングで菜の花公園を訪れるプランやトレイルランニングなど多くのメニューから選べるシステムです。
9市町村が「エリア」でアピール
自然環境に行政の壁はないとして、飯山市に隣接する中野市、山ノ内町、信濃町、飯綱町、木島平村、野沢温泉村、栄村や、新潟県の妙高市の9市町村は、その全域を「信越自然郷」と命名し、北陸新幹線延伸を機に一層の利用・活用に乗り出しています。飯山市の担当者は「9市町村の連携などを通じエリア内のたとえば妙高市の観光客が山ノ内町のサルを見に来るなど、新しいつながりも期待できる」と話します。 新幹線の時短効果は各駅のその先への旅行者の展開効果につながるとされており、沿線小駅も周辺地域の地理的なふところの深さと魅力においては金沢、長野、東京など主要駅とさほど変わりはありません。飯山市は「回遊性のあるまちづくり(まちなか観光)」を重視して5年前から飯山駅と周辺の観光資源のネットワークづくりなどに取り組んでおり、お仕着せの観光や旅行だけでなく、現地が提案し旅行者・観光客が選択して自分の旅をつくりだしていく提案・選択型の観光戦略に期待がかかっています。 (高越良一/ライター)