シュールすぎる世界に夢中になる!ヨルゴス・ランティモス作品の魅力
『ロブスター』
『籠の中の乙女』に続き、ランティモスの世界観が炸裂しているのがコリン・ファレル、レイチェル・ワイズ共演の『ロブスター』(2015)。 ランティモスにとって初の英語作品となる本作は、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。 今回も独特すぎるルールが登場。独身であることが罪とされ、45日以内にパートナーを見つけなければ動物になってしまう世界を描いたSFスリラーとなっています。 ランティモスはまたもや不条理なルールを通して、当たり前に存在する常識や倫理観に疑問を投げかけてきます。 動物になってしまう危機的状況下で本物の愛を築いていけるのか、はたまたそれはただの自己愛なのか。 真実の愛が試されるラストは、思わず考えさせられます。 コリン・ファレルは『フォーン・ブース』や『マイアミ・バイス』などアクション映画のイメージが強く、シュールでアーティスティックなランティモス作品での主演は意外でした。 主人公のおっとりしていて憎めないキャラと、ランティモスの独創性が見事に調和していて、これまた一癖も二癖もある唯一無二の作品に仕上がっています。
『哀れなるものたち』
『哀れなるものたち』(2023)は、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞に輝いたエマ・ストーンとタッグを組んだことで、ランティモスのシュールさにハリウッドの風が漂うゴージャスな大作に仕上がっています。 自殺した女性ベラは、天才外科医ゴッドウィンの手により胎児の脳を移植され蘇ります。ベラは一人で外出することはなく常にゴッドウィンの監視下に。やがてベラに自我が芽生え始め、外の世界への好奇心が抑えられなくなります。 ベラの状況は『籠の中の乙女』の子どもたち、とくに長女とかなり類似しています。ランティモスらしい設定だと思いましたが、実は原作がありアラスター・グレイの同名小説を映画化した作品です。 子どもから大人に成長していく過程では、体の成長に対して知識や経験が足りません。 保護された環境から一歩外の世界へ出ると、悪意を持った人が存在することや、性は搾取される側面があることを知り戸惑う時期があります。 ベラも冒険を通して世界は美しい面ばかりではなく負の面もあるのだと絶望しますが、現実を直視して自己実現に邁進していきます。 世の中の理不尽さに屈せず立ち向かっていくベラの姿は、まさに人生賛歌。 どうにもならない不正義が存在していても、酸いも甘いも経験し自由を手にしていくベラに救われる思いがしました。