神戸イニエスタが新型コロナ感染の同僚DF酒井高徳にエール…6個の絵文字に込められた思いとは?
自他ともに認めるファイターの酒井は、練習でできないことが試合でできるはずがないという持論を新天地でも、それこそ加入直後から遠慮することなく貫いた。本番さながらの攻防がヒートアップし、昨シーズンまで在籍したブラジル人FWウェリントンと一触即発の状態になったこともある。 誰に対しても真っ向から攻め、味方の背中を「行け!」と後押しし、相手には「もっと来い!」と叫ぶ。酒井の本気度がヴィッセルを内側から変え、課題だった失点禍が解消されていった軌跡は、間近で見ていたイニエスタをも感服させた。酒井はこんな言葉を残したこともある。 「若い選手たちは『日本代表でプレーしていたゴウトクだ』という感じで見てくれると思うので、特に若手には背中を見ろ、という感覚でプレーしていました。若い世代がガツガツやることで、上の人間も何くそという思いになる。日本人も外国人も、ベテランも若手もすべてが気を使うことなく共存しなきゃいけない、という一線をなんとか越えたという感覚が僕のなかでも少しあります。何となく『なあなあ』にされていた部分を、一人ひとりが突き詰めるようになった感じでしょうか」 酒井のポジションは左ウイングバック。同じく昨夏にバルセロナから加入し、3バックの左に入ったベルギー代表トーマス・フェルマーレンと完璧な関係を築きあげ、インサイドハーフの左に入るイニエスタを、無尽蔵のスタミナを駆使して攻守両面でフォローする役割も担った。 「世界的に有名なプレーヤーたちから日々の練習を介して細かい技術や動き方、考え方などを学べることは僕にとってもすごく刺激になっていますよね」 こう語っていた酒井のストイックさやサッカーに対する真摯な姿勢、そしてドイツでの濃密な経験を惜しむことなく還元する姿が頼もしく映っていたのだろう。
天皇杯王者として初体験のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)へも臨む今シーズンへ、イニエスタはこんな言葉を残していた。 「日本に来てから新しいサッカー、新しいチーム、そして新しいチームメイトたちとの絡みのなかで、自分としても成長してきた実感がある。今シーズンは自分のベストのバージョンというものをお見せしたいし、日本のみなさんにも自分のプレーを楽しんでほしい」 酒井の感染判明から一夜明けた3月31日にはいぶきの森球技場が立ち入り禁止となり、神戸市中央区のクラブ事務所における業務も休止。ホームのノエビアスタジアム神戸も、地下駐車場を除いて閉鎖された。余波が広がるなかで、シーズンが再開されたときには必要不可欠な存在となる酒井へ寄せた、焦ることなく療養に努めてほしいというイニエスタの願いが6個の絵文字に凝縮されていた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)