iDeCoで損する「3つのケース」とは?大企業の社員は要注意!
● 専業主婦(夫)や住宅ローン控除の利用で 「所得控除のできない人」 3つ目のケースは、所得控除を受けられない人です。 冒頭でお伝えしましたが、iDeCoのメリットの一つに「掛け金の所得控除」があります。 これは裏を返せば、「収入のない専業主婦(夫)」や「住宅ローン控除などを利用して所得税を納めていない人」は、このメリットが受けられないということでもあります。 iDeCoでは口座管理手数料が発生するため、こうしたケースに該当する方が資産運用をする際は、まずは手数料がかからないNISA(少額投資非課税制度)を優先した方がよいでしょう。 ● 大企業で働く会社員が 「損する」試算を公開! さて、1つ目のケースで挙げた「大企業で働く会社員」に代表される、長く働いていて退職金としての企業年金が多めにある人について、「将来天引きされるかもしれない金額」が「控除額」を上回ってしまい、損をするケースの試算を説明します。 年金で受け取る場合には「公的年金等控除」、一括で受け取る場合には「退職所得控除」が適用されます。ここでは年金を毎月受け取ると仮定して「公的年金等控除」を見てみましょう。 公的年金等控除は、他に収入がない65歳以上の人のうち、 ・年金額「110万円超~330万円未満」の人は「収入金額の合計額-110万円」 ・年金額「330万円以上~410万円未満」の人は「収入金額の合計額×0.75-27万5000円」 ・年金額「410万円以上~770万円未満」の人は「収入金額の合計額×0.85-68万5000円」 ・年金額「770万円以上~1000万円未満」の人は「収入金額の合計額×0.95-145万5000円」 ……という控除額の設定があります(以下の図参照)。 例えば、毎月の年金額が25万円(300万円/年)の人の控除額は110万円であり、300万円-110万円=190万円に対して、税・社会保険料がかかります(※1)。 税を具体的に見ると、所得税が5.105%で約9万6000円、住民税が10%(市町村民税が6%、道府県民税が4%)+均等割(自治体によって異なりますが、ここでは市町村民税3500円、道府県民税1500円とします)で、約19.5万円。合わせて約29万1000円の税負担となります(※2)。 社会保険料(国民健康保険料と介護保険料)は、東京都新宿区の場合で、月2万5927円 ×12カ月=約31万1000円(※3)。 つまり、1年分の年金300万円から約60万2000円が天引きされ、手取りは239万8000円となります。 仮に上記の人がiDeCoで月3万円を上乗せして受け取ったとしましょう。受け取る年金額は月28万円(336万円/年)となり、336万円×0.75-27万5000円=224万5000円に税・社会保険料がかかることになります。 すると、所得税が5.105%で約11万4000円、住民税が10%(市町村民税が6%、道府県民税が4%)+均等割の標準税額は市町村民税3500円、道府県民税1500円で、約22万5000円、合わせて約33万9000円の税負担となります(※2)。 国民健康保険料・介護保険料は、上と同じ条件で、月2万7599円 ×12カ月=約33万1000円(※3)。 従って、336万円から約67万円が天引きされ、手取りは約269万円となります。 このように、iDeCoの上乗せ分は36万円分ですが、実際の手取りは31万2000円となり、年間4万8000円 の税・社会保険料の負担が発生しています。 年金制度ではありませんが、仮にNISAで運用し月3万円ずつ取り崩した場合は、天引きされることなくそのまま36万円が受け取れます(NISAの運用益は非課税で収入にもカウントされません)。 以上のことから、控除内でやりくりできそうにない場合は、iDeCoでの運用ではなく、NISAを優先させた方がよいでしょう(※4)。 (※1)医療費控除、寄附金控除など他に利用できる控除があれば、課税される金額が下がり、税・社会保険料の負担が減ります。 (※2)100円以下は切り捨てで試算しています。 (※3)2022年の保険料です。 (※4)条件が複雑になるため省略しましたが、iDeCoの掛け金は全額所得控除されます。将来天引きされるかもしれない金額と控除額どちらが有利になるかは年収によって異なります。 仮に月1.2万円を拠出すると、1.2万円×12カ月=14.4万円が控除され、年収650万円の人であれば年間約4.3万円、年収800万円の人で年間約4.7万円の税負担軽減があります。年収が高い人ほど控除額も大きくなります。 しかし、65歳以降も課税金額が増えることで、社会保険料だけでなく、医療費、公共サービスを利用する際の負担が増える可能性もあります。総合的に考えると、所得控除よりも将来の支払う金額の方が高くなるケースが多いのではないかとも思われます。 このように、iDeCoはメリットも多い半面、気を付けたいポイントも幾つかあります。 ● iDeCoで気を付けたい 3つのチェックポイント 今回ご紹介した3つのケースで気を付けたいチェックポイントを改めてまとめると、以下のようになります。 (1)控除枠内で受け取る工夫はできそうか? (2)積み立てたお金はいつから受け取れるか? (3)運用益が手数料以下になる可能性はないか? iDeCoはあくまでも年金制度。税制優遇制度としてNISAと比較されることもありますが、その使い勝手は大きく異なります。公的年金や退職金などと合わせて、いつからどう受け取ることができるのか、考えておくとよいでしょう。 (協力/ファイナンシャルライター 瀧 健)
井戸美枝