中国が台湾に侵攻したら宮古島を舞台に日本有事が発生…『外事警察』の麻生幾が描く“リアル”とは(レビュー)
宮古島で陸上自衛隊員一〇名を乗せたヘリコプターが墜落してから早一年が過ぎた。原因については事故当時様々な憶測が飛んだが、中国による侵攻作戦の対策に向けた視察ゆえの悲劇だったと喝破したのが麻生幾である。本書は麻生がその宮古島を主要舞台に、改めて日本有事のリアルの一端を描いた軍事活劇だ。 三月前半、中国人民解放軍が台湾全面侵攻に向けて動き出したとの情報が防衛省に知らされる。二週間後、東京・江東区で造船企業の特殊船舶係長が変死。男は防衛省と水陸両用装甲車の国産化事業を推進していたが、人民解放軍の情報機関の女と長らく接触していた。女はとうに逃亡しており、その後警察の捜査で、中国の狙いは装甲車そのものではなく、上陸作戦に向けての宮古列島の地勢データであることが判明する。 その宮古島から目と鼻の先にある小島、神ノ島は年に一度の秘祭を迎えようとしていた。新任教師の糸村友香は幼馴染の与座亜美の娘たちを教えることになり有頂天になっていたが、やがてその妹のほうが不審な男を目撃。ダイバー姿の男を描いたスケッチ画は程なく中央にもたらされ、中国の特殊部隊が潜入したものと分析されるが……。 中国の台湾侵攻が動き出す中、人民解放軍の特殊部隊が与那国島でも石垣島でもなく宮古島に潜入したのは何故か。目的不明なまま、陸上自衛隊からも熊本の第8師団の情報小隊や長崎の水陸機動団、千葉の特殊作戦群の精鋭が宮古島に向かう。 いつものように、防衛省の人事から自衛隊の組織、宮古島の地理、施設、銃火器、軍用品に至るまで、微に入り細にわたる麻生タッチに貫かれているが、それに惑わされてはならない。自衛隊は中国の情報戦略に翻弄され、戦闘の火ぶたが切られても応戦に手間取る。やがて次々と仆れていく兵士たち。米軍の出方も注目だし、まさに今、そこにある危機を活写した実戦小説なのだ。 [レビュアー]香山二三郎(コラムニスト) かやま・ふみろう 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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