フェラーリ12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)は現代版デイトナに非ず
内燃式エンジン車が肩身の狭い思いをしがちな昨今、フェラーリは排気量6496ccをもつ自然吸気12気筒エンジンを搭載した、812スーパーファストの後継モデルをデビューさせた。アメリカ・マイアミでは5月にアンベールされ、6月11日に東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーにて発表会が開催された。その名も「12Clindri(ドーディチ・チリンドリ)」。日本語にするなら「12気筒」が車名である。実に大胆なネーミングといえよう。 【画像】12気筒エンジンを積む新しいフェラーリ、12Clindri(ドーディチ・チリンドリ)のインテリアや外観(写真18点) これはフェラーリによる昨今の脱内燃式エンジンの動きへのアンチテーゼのように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。また、12Cilindriが“現代解釈のデイトナ”であるようなことが一部では囁かれているが、フェラーリ側からは明確に否定されている。もっと言えば、このデザインは70年代のロケット開発競争時代のデザインにインスパイアされているそうだ。 フェラーリでは2025年までに電気自動車の投入が予定されているほか、同社が販売する車両のポートフォーリオを2026年にはハイブリッド車55%、電気自動車5%、内燃式エンジン車を45%にする計画を掲げている。そして、2030年までにはこの割合をハイブリッド車40%、電気自動車40%、内燃式エンジン車20%にする方針(フェラーリのサステナビリティ・レポートに記載アリ)だ。そう、フェラーリの電動化は加速するが内燃式エンジン車は近い将来、絶滅してしまうわけではない。だからこそ新しい12気筒大排気量エンジンをこのタイミングで投入してきたのだろう。 「全モデルをただちに電気自動車にするのではなく、環境負荷を軽減させながら各国のレギュレーションを満たし、最終的にはお客様のご要望にお応えするまでです」と話してくれたのは、フェラーリS.p.Aプロダクトマーケティングの責任者を務める、エマヌエル・カランド氏。エンジンは車の魂で、音はエモーションである、と語っていたことが印象的だった。 「クーペとスパイダーを同時に発表するのは初めての試みですが、スパイダーのデリバリーはクーペよりも6~8カ月遅れる見込みです。日本の受注枠はおかげさまで今年度分は既に埋まっていて、クーペの日本デリバリー開始は“18カ月以内”と皆様にお伝えしております」と語ってくれたのは、フェラーリジャパン代表取締役のドナート・ロマニエッロ氏。 なお、アメリカはスパイダーが人気、ドイツ、イギリス、オーストラリアはクーペが人気、と地域特性が見られるなか日本はちょっと一味違うそうだ。というのもクーペ派、スパイダー派、そして両方を選ぶ顧客が居る、と本気なのか冗談なのか分からない話をしていた。 フェラーリに限った話ではないが、供給数に限りがある“高級嗜好品”はショールームに足を運んだからといって買えるものではない。そこでカランド氏、ロマニエッロ氏にどのようなステップを踏んで12Cilindriのような人気モデルを購入できるに至るのか聞いてみた。 「フェラーリでは車両のご購入だけでなく、ご購入後のフェラーリとの付き合い方、そしてパッションを重んじています」とカランド氏。ふんわりした回答ではあるが、まずは“買える”フェラーリを購入することがすべての始まりだ。フェラーリと過ごす日々において、同社もしくはディーラーが主催する各種イベントに情熱をもって参加すべし、そしてフェラーリをとことん愛せよ、というメッセージを感じる。 一方、ロマニエッロ氏は「認定中古車なら店頭に並んでいるものをご購入いただけし、お待ちになることなくお乗りいただけます」とやはり12Cilindriの新車購入についての回答は頂戴できなかった。筆者が解釈するに、もはやフェラーリの顧客は「消費者」ではなく、熱烈な「ファン」であることを求められているのだろう。12Cilindriクーペの車両価格は5674万円(税込み)、スパイダーは6241万円(税込み)となっているが、新車で入手するハードルは価格以上というわけだ。 来年、街中で走る12Cilindriを見かけたなら、フェラーリ・ライフで徳を積んだドライバーに尊敬の眼差しを送ろうと思う。 文:古賀貴司(自動車王国) 写真:フェラーリ Words:Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Ferrari
古賀貴司 (自動車王国)