5代目の手による石塚染工:江戸小紋の新しい時代
柄の種類も豊富で、幾何学模様や草花模様などさまざまな柄があり、さらに豊富な色と組み合わせを楽しむことができるんです。 また、江戸小紋の柄にはさまざまな意味や由来があります。 たとえば、ウサギの柄は「飛躍する」という意味があり、縁起の良い動物として人気があります。キツネの柄は「厄除け」の意味があり、邪気を払う効果があるとされています。
昔の人々はこうしたさまざまな柄を使い、オリジナリティあふれる着物を作り出していたと言います。 江戸時代に奢侈禁止令が出され、派手な色や柄の着用を禁止したこともありました。そのときの着物職人たちによっては、地味な色や柄の着物が多く作られていたようです。 細かい柄は遠目から見ると無地のように見えますが、近くで見るとさまざまな模様が浮かび上がってきます。この細かい柄は、職人たちの技術の粋を集めたものであり、江戸小紋の特徴となっています。 職人たちは、この細かい柄の技術を競い合ったと言われています。その描写力やデザイン力は現代の私たちでも驚くほどで、浴衣のデザインを考えるとき、昔の柄の素晴らしさに圧倒されてしまいます。 明治の頃は、日本画家が着物の帯や伊勢型紙などのデザインを手掛けていたと聞いています。特に日本画家は描写力に優れているため、着物のデザインに適していたのでしょう。 ー伝統的な染物技術を守りながらも、5代目の久美子さんは新しいアプローチやアイディアを取り入れているんですよね。 コロナ禍に東京都の補助金事業を利用し、2人の女性デザイナーさんとコラボレーションして、江戸小紋染めのバッグ「Edo komon KATAK"ATA」を作りました。
そのうち、グレーのデザインは完売してしまい、今はイエローとブルーの2色のみ販売しています。 この商品は令和3年6月頃に発表されたもので、浴衣や着物に合わせて使えるように、シンプルなデザインを意識しました。色や生地、柄の組み合わせなど、さまざまなパターンで試作を繰り返しました。 着物屋さんや和柄専門店で販売すると、どうしてもターゲット層は偏りがちです。 手仕事や伝統工芸の良さを広めたいという想いから若年層や着物を着ない方までもターゲットを広げ、江戸小紋の認知度を高めることに注力しました。 具体的には、色をポップなカラーリングにし、チェーンをバンブーではなくアクリル製にすることで、カジュアルな印象にしました。また、ストラップが取り外せるため、浴衣はもちろん、普段着にも合わせやすいデザインにしました。着物と洋服の両方で使えるバッグを目指しています。 私は元々個性のあるものが好きなので、他にはないものを作りたいという想いがあるんです。 ー技術を継いでいくのと、新しい要素を取り入れるというバランスはどのように意識されていますか。 着物を着る人が減っていくなかで、どのようにして伝統工芸を守っていくかが大きな課題だと感じています。着物業界全体が縮小傾向にあり、着物の材料を扱う業者や伊勢型紙の職人さんも減少しています。 現在は若年層の方はアンティーク着物を着ることはありますが、高価なものを買うかというとなかなか難しいところです。 石塚染工は、伊勢型紙を使って1反1反、丁寧に想いのこもった作品つくりを目指しています。そして、時代の変化に合わせて伝統工芸を守り続ける方法を探しています。 私たちは、着物を通して日本の伝統文化を伝えたいと思っています。そのためには、人の手で丁寧に作られた着物の魅力を、多くの人に知ってもらう必要があります。 現代は機械化が進み、少なくとも人の手が必要でなくなる時代になってきています。 しかし、私たちは人の手の技で作られた着物だからこその、特別感や価値を大切にしています。そんな私たちの想いに共感してくれる人が、もっと増えてほしいと願っています。