5代目の手による石塚染工:江戸小紋の新しい時代
ー久美子さんが家業を継ぐきっかけはどんなところにあったのでしょうか? 幼い頃から伝統工芸に触れ、物作りや手仕事が好きで育ってきました。大学では日本画を学び、その思いをさらに深めました。 しかし家業に携わりたいと父に伝えても、父は時代が変わり、着物業界も厳しくなっていることを懸念し、私に社会経験を積んでから、本格的に着物の仕事に就くように勧めました。
その後、アパレル関係の会社に就職しました。しかし、やはり物作りを通して着物の仕事がしたいという気持ちは諦めきれず、2年後に退職し、父に再び家業を継ぎたいと伝えました。 そして、2年後に私が改めて意志を伝えたとき、「趣味程度なら工房で働いてもいい」と言われました。
当時は震災の年で、仕事がなくなるかもしれないという不安がありました。バイトと家業を両立させながら、1年ほどは不安定な状況でしたね。思っていたよりも大変でした。 当時、2つの仕事を掛け持ちしていたことで、体調を崩したこともありました。型紙の性質からくる縮みも考慮しながらの作業で、夏場に冷房のない部屋で作業するのは特に大変でした。
ー江戸小紋染めの技術をどのように受け継いできたのでしょうか? 着物の生地に柄や文様を染めるために使う“染め型紙”のことを伊勢型紙と言います。江戸小紋の製作は、この型紙をつなぎ合わせる作業から始まります。 型紙は柄の種類が多く、細かな柄が多いため、すぐにはこの作業を任せてもらえませんでした。
そこで、まずは大きな柄で木綿の手ぬぐいから始め、柄のつなぎ合わせ方や色の調合を練習しました。そこから徐々に浴衣の製作に移り、絹の生地や細かい柄にも挑戦するようになりました。
描写力やデザイン力に圧倒される
ー江戸小紋染めの魅力は何だと思いますか? 江戸小紋の魅力は、なんといってもその細かい柄です。1色染めで、遠目には柄がわからないほど細かく、近くで見ないとわからないのが特徴です。 たとえば、錐彫(きりぼり)のフランス縞は細かい錐が人気の高い文様になります。