田島翔のフッチボール日記 Vol.2
サッカーと麻雀の二刀流プロの肩書を持つ田島翔という男はいったい何者なのか――。1993年にJリーグが開幕され、日本で空前のサッカーブームが巻き起こった時代を生きてきた彼は、高校卒業後、プロサッカー選手に夢を抱き、シンガポールへ渡る。その後もいくつかの海外でプレーを経験したのち、日本ではJ2のロアッソ熊本などに所属するも、再び海外サッカーの世界でキャリアを積んできた。これから新たな道を切り拓くサッカー人生とは――。自身の半生を振り返りながら、田島翔が“フッチボール日記”を綴る。
(続)12月20日
僕は、彼女を待ちました。ちょっとドキドキしていましたが、いざとなれば、全速力で逃げれば大丈夫だろうなんて警戒しつつ。どれぐらい待ったか。たぶん5分もなかったはずですが、ずいぶん長く立っていたような感覚もありました。 そして出てきた彼女は、ひとりでした。美人局じゃなくてよかったと胸をなでおろすと、僕のほうに小走りで駆け寄って、またジェスチャー。「ついてきて」です。こうなると、なんだか面白くなってきます。でも、僕はロクに喋れないので、歩いている彼女を楽しませることもできないのです。 彼女はずんずん歩き、中華料理屋に入りました。いわゆる大衆的な中華屋さんではなく、スタイリッシュでお洒落なレストラン。19歳になったばかりの僕には、大人過ぎる空間。彼女のジェスチャーに操られるように、カップル席のような場所に座り、出てきた料理を順番に平らげました。それが、人生で初めて味わった「コース料理」でした。コクのある深い味わいで、最高に美味しかったのですが、緊張し過ぎてどんな料理を食べたのかを忘れてしまいました。 こう書くと、安手のAVのようですが、食事の後には何のハプニングもありません。僕がむしゃむしゃ食べるのを眺めながら、彼女は上品に食べて、さっと手を上げて支払いを済ませ、店の外に出ると、笑顔で手を振って街に消えてしまいました。いま考えても、説明のつかない不思議で面白い夜でした。