写真・図版：プレジデントオンライン

■句点を嫌う若者が本当に嫌いなものとは 　「マルハラ」という言葉が最近インターネット上で話題になりました。LINEやビジネスチャットの文末に句点をつけて送ると、受け手はそっけなく会話を遮断された印象や、威圧感を抱いてしまう。そのような考えから、句点のマル(「。」)とハラスメントを合わせた造語として、マルハラが使われるようになっています。 【写真】ウツワ代表取締役社長 ハヤカワ五味さん 　マルハラ被害を訴えるのはデジタルネイティブのZ世代に多く、一般的にはジェネレーションギャップの問題として語られてきました。文章には句点をつけるのが常識とされてきた30代以上と、LINEの平易な文章に慣れたZ世代の感覚の隔たりが、マルハラの要因だと捉えられているわけです。 　ただ、マルハラを世代間の問題として片付けてしまうのは見当違いだと私は思っています。 　そもそも、一般的に文末には句点をつけるのが適切。マルハラを訴えるZ世代も、大学入試の志望理由書や入社試験のエントリーシートでは、句点を打ってきたはずです。では、LINE​やチャットに限ってマルハラが発生するのでしょうか。 　マルハラ被害を訴えられる原因は、相手からそもそも嫌われていたり、文章にハラスメント要素を無自覚に忍ばせているからという可能性はないでしょうか。つまり、マルハラと言われる原因は、句点の有無の問題ではないというのが私の持論です。 　少し前に取り沙汰された「おじさん構文」を引き合いに出すと、マルハラの本質がわかりやすくなるかと思います。 　おじさん構文とは、非デジタルネイティブ世代が送る絵文字を多用した長文のLINEが、若者に嘲笑される現象を示す造語でした。 　一方で、考えてみれば、祖父母のように親しい相手から絵文字を多用した長文のLINEが送られてきても、使い方に慣れていないと思う程度で不快にはならないでしょう。

■関係性を構築できれば、「マルハラ」も「おじさん構文」も怖くない 　つまりマルハラの本質は、相手との関係性や距離感を見誤ることに起因しています。 　おじさん構文の場合は距離感の近さや自己完結的な表現が敬遠される一方、マルハラは関係性の隔たりを指摘されますが、相手との関係性を正しく認識できていないという根底は同じです。そのうえマルハラは、受け手側がもともとコミュニケーションを取りにくいと感じていた相手に対して、体面を保ったまま苦手意識を表明するための方便として都合よく使われているのではないかと私は思っています。それゆえに、言葉の本質がわかりにくいのです。 　もしあなたがマルハラの当事者であると危惧しているなら、相手との適切な距離感を測るように心がけましょう。ビジネス上のやり取りであれば、メールやチャットではなく、情報量が多い対話形式で「句点がついていても威圧しているわけではない」とリードしてあげましょう。 　逆に、若い世代に寄り添うアプローチも必要です。具体的に言えば、メッセージを送るツールによって文章の長さやテンションを意識してみましょう。メールでは「お世話になっております」「引き続きよろしくお願いします」と畏まった表現が相応しいですが、それをLINEでそのまま用いると違和感を覚えますよね。ネットリテラシーに長けたデジタルネイティブ世代はこうした不自然さに敏感であるため、LINEで冗長な挨拶を送れば、苦手な人という烙印を押されてしまうでしょう。 　マルハラという表面的な言葉に惑わされ、句点を用いない若者の風習に迎合するのは、本質的な解決を遠ざけます。むしろ価値観のギャップがあるZ世代に対しても、句点のある文章で意思疎通を図ることで、双方のコミュニケーション能力が培われるのです。 　※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。 ---------- ハヤカワ 五味（はやかわ・ごみ） ウツワ代表取締役社長 ウツワ代表取締役社長、ファッションデザイナー。1995年、東京生まれ。高校生の頃からアクセサリー類等の製作や販売を行い、多摩美術大学入学後にランジェリーブランド「feast」を立ち上げた。2019年に生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を発足させ、22年にM＆Aでユーグレナグループにジョイン。現在は生成AI関連の仕事に従事。 ----------