映画『オッペンハイマー』を予備知識ゼロで観た私の、作品をより深く理解できるおすすめ鑑賞法
Netflix版『三体』で、天才的物理学者のオギー(エイザ・ゴンザレス)がナノファイバー設計の技術を殺人兵器に転用されてしまい、それが地球を救うためとはいえ殺人に加担してしまった葛藤に苦しむ様は、恐らくオッペンハイマーを含むすべての科学者に起こり得る悲劇。どんなに素晴らしい発明も、いちばんお金になるという理由から、戦争兵器に使われてしまうリスクがあるのだろうなぁと。 さらに、ドラマで宇宙人が「地球人は嘘をつくから恐ろしい。そんな恐ろしい生き物は絶滅させなければならない」と判断したのと同じように、戦争とは常に、「やられる前にやらなければ、相手がいつ襲って来るかわからない」という恐怖心から生まれるもの。『オッペンハイマー』でも、アメリカが原子爆弾の開発を急いだこと、そして日本に投下したのは、宿敵・ロシアを牽制するためだったことが描かれています。 しかし武力の保有はさらなる相手の競争心と恐怖心、相互不信を生むだけ。アメリカとロシアも原爆開発後、核兵器による武力拡大がスピードアップし、世界を巻き込んだ冷戦に突入していきます。 というわけでNetflix版『三体』は、物理学者オッペンハイマーの苦悩をより想像しやすくなるための潤滑油的な役割を果たしてくれました。 『オッペンハイマー』に話を戻すと、原爆が完成し、広島・長崎に投下してクライマックス、かと思いきや、後半はストローズという器のちっちゃい男がオッペンハイマーに、ネチネチネチネチ、陰湿な仕返しをしていくお話。ーーなんですが、このストローズが持っていたオッペンハイマーへの恨みって、実はストローズの被害妄想が根っこにあったことが最後にわかるのです。
これはまさに、アメリカとロシアが「敵国の方がすごい兵器を持っているんじゃないか」という思い込みから不毛な核兵器開発競争をしているのと、全く同じ構図なんですね。本当はロシアには当時まだ、核兵器なんて存在していなかったのに。「ロシアが先に核兵器を持ってしまったらアメリカがやられる」、その一心で、恐ろしい殺人能力があると知りながら、原爆をこの世に誕生させてしまったわけですから。 この映画では原爆投下による被害を描いたシーンはほぼ出てきません。ただ、オッペンハイマーは原爆投下後、さらに殺傷能力の高い水爆開発に反対し続け、それによってアメリカ国内では疎まれスパイ容疑をかけられ、出世街道からは外れていく。そうしたところから、彼が原爆発明に対しどんな感情を抱いていたかを窺い知ることができます。