〈特別取材〉目黒蓮主演「海のはじまり」の脚本家・生方美久が今作で‟伝えたいこと”はふたつ
ドラマを愛されている生方さんですが、生方さんにとって「月9」はどんな存在ですか?
正直、ドラマの「枠」というものへの意識はありません。月9というのは、おそらく「枠の名前」がいちばんポピュラーなぶん、良くも悪くも注目されてしまうんだと思います。とてもありがたいです。「ありがたいです」以上の感情に自分が引っ張られないよう、気を張っています。前2作は木曜劇場で、とても歴史があり偉大なドラマをたくさん放送してきた枠です。今回月9の脚本を書くということで「プレッシャーでしょ?」という類のことをたくさん聞かれますが、ド新人があの木曜劇場でオリジナル脚本を全話書くというあのプレッシャーに勝るものはこの先絶対にありません。一生分のプレッシャーを「silent」に置いて来たので大丈夫です。今は枠というものにとらわれず、与えられたものに感謝するだけです。過去の月9ドラマでお気に入りなのは「人にやさしく」です。撮影時の須賀健太さんは小学校一年生だったようで、無意識に影響されたのかもしれません。
ドラマ脚本3作品目になりますが、取り組んでいくうえでの“こだわり”は?
脚本のこだわりとしては、毎度のことですが各人物を多面的に描くことです。主人公が軸になるのはもちろんですが、その周辺人物を描くことで結果として主人公の人間性がより豊かに見えることもあります。夏と海が親子になっていく話というのは、あくまでひとつの軸でしかありません。そして、相変わらず回想シーンが多いです。古川琴音さん演じる水季1話の時点で亡くなっている役柄なので、回想シーンしか出てきません。未来を見据えて今を生きていく人たちにとって、過去は重荷であり希望です。回想シーンの見せ方、切り取り方、繋ぎ方にはこだわっています。 連ドラも3作目となると、諦めを覚えるようになります。クリエイティブへの裏切りを感じると瞬発的には抗っても、後に自分のなかで「だよな」「もういいや」となってしまうことが増えました。“こだわり”なんか捨てたほうがいいという気持ちになります。ただ、連ドラも3作目となると、出会いも増えます。今作は監督が3名いるのですが、全員過去に拙作を撮ってもらったことのある監督たちです。それが何よりも心強いです。脚本やキャラクターは自分の子どものような感覚なので、自分自身の否定よりも脚本を存外に扱われることのほうが強く傷つきます。信頼できる監督たちと、その元に集まったスタッフキャストのみなさんで映像を作り上げると思うと、安心して我が子を託せます。自分のわがまま(こだわり)で、撮影が大変になる柱や、長すぎるワンシーンを書いてしまうこともあるのですが、どのスタッフもドラマがより良くなることを優先に考えてくださり、すぐに「脚本を変えよう」ではなく、「この脚本のまま実現する方法を考えよう」としてくれます。残り少なくなっていますが、スタッフキャストのみなさんに実現したいと思ってもらえるような、“こだわり”を諦めない脚本を最終話まで書き上げたいです。 視聴者のみなさんには、ドラマを観て何か感じるものがあったらスタッフクレジットまで気にかけてもらえるとうれしいです。その名前がひとつでも欠けたら、このドラマは存在しませんでした。 「silent」の最終回放送前にもインタビューを行っていたGINGER。当時、ドラマの展開を考察する人たちが多かったなか、「ドラマを観てどう思ったか、自分の感想や思いを大事にしてほしいな、と思います」と語っていた生方さん。彼女が紡ぐ静かで優しく、力強い言葉とその先にあるメッセージを逃さず、観た後にちょっと考える時間。この夏は作ってみませんか。 生方美久(うぶかたみく) 1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ『いちばんすきな花』の全話脚本を担当。 TEXT=GINGER編集部
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