<挑む・’23センバツ>仙台育英・東北・能代松陽 チーム紹介/下 能代松陽 「全員野球」で春の勝利を /宮城
◇制限ある冬も前向きに 「いち、に」。寒空に雪が舞う1月下旬、秋田県能代市の能代松陽高。敷地内の農業用ハウス(奥行き約60メートル、幅18メートル)にかけ声が響く。野球部員らが打者とバッテリーに分かれて練習していた。 真っ白な雪に覆われたグラウンドの脇にあるこのハウスが、冬場の練習拠点だ。限られたスペースを有効に使い、走り込みやティーバッティングなどをこなす。センバツに向け月2回、週末に雪のないグラウンドを求めて宮城県へ遠征するが、普段の練習は基礎体力を養うことが中心。昨冬はコロナ禍で部活動が停止され、1、2年生にとって本格的な冬場の練習は初めてだ。 「この環境をマイナスに捉えず、何を鍛えるか意識しながら練習することで強豪との差を詰めたい」。主将の大高有生(2年)はこう受け止め、「(グラウンドの)土の上で練習できる遠征は貴重。だからこそ大切にできる」と前向きだ。 野球ができるのは、地域の理解があるからこそ。そうした思いから野球部は学校周辺の雪かきにも取り組む。「早朝から練習で大声を出すなど近隣に迷惑をかけていると思う。日ごろの感謝を込め、あいさつや地域への貢献を心がけている」(大高)という。 そんな能代松陽は、夏の甲子園には昨年を含め4回の出場経験があるが、センバツは初めてだ。「出場おめでとう」と書かれたポスターが街中に張られ、地元の期待は大きい。 昨夏の甲子園は無念の1回戦負けだった。登板した森岡大智(2年)は「あれからよく声をかけられるようになり、秋の大会はしばらく緊張してしまった」と重圧を感じつつも「昨夏は自分のせいで先輩の夏を終わらせてしまった。今回は勝ってチームに恩返ししたい」と雪辱に燃える。 チームの合言葉は「全員野球」だ。強豪ひしめく甲子園で勝ち上がるには、全員で立ち向かわなければならない。だからこそ「みんなで同じ練習をし、結束して勝利を目指す」と工藤明監督は説く。 大切にするのは選手が自らの役割を認識すること。2番の淡路建司(2年)が「1番が出塁したときのチャンスメーク」と言えば、捕手の柴田大翔(2年)は「投手の球をミスなく取ること」と語る。一人一人のシンプルで謙虚な言葉に、チームへの貢献を重んじる姿勢がにじむ。 昨秋の東北地区大会では、仙台育英(宮城)、東北(同)、聖光学院(福島)など私立の強豪とも渡り合い、県立高で唯一、4強に肩を並べた。「センバツで少しでも爪痕を残して“公立の星”になりたい」。工藤監督は控えめだが、視線はしっかりと春の勝利を見据えている。【猪森万里夏】