Skateboarding Unveiled vol.9 ~フィッシュアイレンズ~
フィッシュアイでのアオリ撮影と落差のあるセクション
縦位置のフィッシュアイといえば、忘れてはいけないのがハンドレールやステアといった落差のあるセクション。 この写真は全く同じライダー、セクション、トリックで撮影したものになる。だがフィッシュアイレンズで撮影した左側の写真のほうが、標準レンズで撮影した右側の写真よりも大きなレールに見え、長い距離を流しているように見えるのではないかと思う。 スケートボード世界では、フィッシュアイのアオリ(下から上に向かって撮影すること)が定番中の定番と言われている。それを縦構図に落とし込むと、ご覧のようにレールやステアの構図内に占める割合が大きくなる。するとフィッシュアイの歪みがさらに強調される。だからより高く、より長く、よりスゴく見せることができるのだ。
となると落差のあるセクションでは、とりあえずアオリ撮影しておけば間違いないと思う人がいるかもしれないが、決してそんなことはない。 このようなダブルセットのステアでアオリ撮影すると、中央の踊り場の幅がわかりづらくなることもあるので、時には撮影ポイントの高さを上げることも必要になってくるのだ。大切なのは撮影するセクションをしっかり見つめ、ライダーのトリックをちゃんと理解し、双方の魅力を最も引き出すアングルを導き出すこと。そこにフィッシュアイレンズによる空間の歪みが加味されると、いわゆる専門誌で見るような写真になるのである。
以上が、「なぜスケートボードの現場でフィッシュアイが使われるのか?」の答えになるのだが、 最後におまけでこちらもひとつ。 誰もが知るレジェンド、トニー・ホークの写真なのだが、これは降雨でコンテストが一時中断した際に引き返す瞬間を捉えたもの。いくらバーチカルとはいえ、プラットフォームがすごく広いかというと、決してそんなことはない。しかも何人もの選手や撮影クルーが立つのだから、撮影しようにも後ろに引けず、標準レンズでは見切れてしまう可能性もある。 だがそんなときもフィッシュアイならお構いないしに全てを捉えてくれる。 さらにこの写真は背後にブロワーで濡れた滑走面を乾かしている人も見えるので、どんな状況なのかも分かりやすい。フィッシュアイレンジはそういった情報量の観点から見ても魅力的だし、何よりポートレート写真でもちょっとした歪みがあるだけでスケートボードっぽさが出る。自分にとっては長年愛用している魅力的なレンズなのである。