「ポルトガルはロナウドのためにプレーした。ロナウドはロナウドのためにプレーした」すでに2年後のW杯出場へ意欲…“レジェンド”を巡る狂騒はいつまで続くのか
スペイン人は、長くクリスティアーノ・ロナウドを見てきた。不世出の天才、リオネル・メッシの存在をむしろガソリンにして、ゴールを量産し続ける姿を――。レアル・マドリーはその間、ロナウドがフィニッシュに専念できるよう周囲がお膳立てしていたが、圧倒的な結果を手にすることでその手法を正当化し、マドリディスタはエゴの塊のような彼の性格を受け入れた。 【動画】EURO2024準々決勝、ポルトガル対フランスのハイライトをチェック! しかし、そのロナウドもキャリアの晩年を迎え、6度目の出場となる今回のEUROでは物事が思うようにいかず、フラストレーションを発露させる姿が目に付いた。マドリー時代同様にフィニッシュに専念できる環境を用意してもらったが、全5試合にフル出場し、無得点。結果ですべてを正当化していたストライカーのその大前提がなくなったわけだ。 延長前半でのPK失敗→涙を流す→PK戦で借りを返す→チームが勝利と、様々な変遷を辿って文字通り主役を演じ続けたラウンド・オブ16のスロベニア戦を、スペイン紙『AS』のレビュー記事でアリツ・ガビロンド記者は、以下のように分析した。 「ポルトガルはロナウドのためにプレーした。ロベルト・マルティネス監督はロナウドのためにプレーした。チームメイトはロナウドのためにプレーした。ロナウドはロナウドのためにプレーした。すべては彼中心に回っていた。しかし、ロナウドを大会史上初となる6大会連続の得点者に仕立てようとするその集団的な試みは、強迫観念と化した。ロナウドはいつも限界まで自分を表現するが、スロベニア戦では悲喜劇に近かった。嘆き、大騒ぎし、しまいには涙を流し、チャンスを逃すたびに芝居じみたジェスチャーのオンパレード。ロナウドは飢えと苦悩、野心と苦痛が入り混じった偉大さを築き上げてきた。しかし今大会はいくら噛み締めても、一向にゴールは生まれなかった」 ロナウドはふたつの相反する要素を抱えている。ひとつは『AS』紙の前編集長、アルフレッド・レラーニョ氏が、「39歳になったロナウドには、チャンスを得点に結びつけるための反応速度、加速力、跳躍力が少しずつ欠けている」と指摘する年齢による衰え。もうひとつは人気コラムニストのラファ・カベレイラ氏が、「ロナウドのキャリアは常に『俺vs世界』の連続だった」と表現するエゴだ。 誰よりも自分を信じて突き進んできたロナウドだからこそ、誰よりも現実を直視するのが難しいと述べるのは、スペイン紙『エル・パイス』に記事やコラムを寄稿するダビド・エスポシト氏だ。同紙のコラムでその様子を「まるで『成功』という巨大な山を登るうちに、『どうやって降りるか』という超越的かつ根本的なことを忘れてしまったかのようだ。グループステージのチェコ戦、相手のGKインジフ・スタニェクの目の前で、自分のゴール(得点者はチコ・コンセイソン)でもないのに喜ぶロナウドを見ていると、憤りや怒りよりも哀れみを覚える。『俺に挑戦するな。俺は王様のままなんだ』とスタニェクに向かって叫んでいるように見えたその姿からは、自分を無理やり納得させようとする絶望感が漂っていた」と描写する。 例えば終盤にスーパーサブとして起用するなど、今のロナウドの力量を適正に評価し、それに見合った役割を与えていれば、また違った展開になったかもしれない。あるいは6大会連続得点に難なく成功し、チームを勢いづけていた可能性もある。だが、ロベルト・マルティネス監督は彼と心中する道を選んだ。 『ラジオ・マルカ』の人気番組でMCを務めるミゲル・キンターナ氏は、「ロナウドは伝説だ。歴史的な選手だ。しかし、ロベルト・マルティネスがフランス戦(準々決勝)で彼をスロベニア戦に続いて120分出場させたことは、全く無意味だった。チームにとって明らかに逆効果だった。それを最初に知るべきは、監督であるはずだ。マネジメントやヒエラルキーといったことを考えないといけない立場は理解できるが、それも限度がある」と、スペイン・カタルーニャ州出身の指揮官の起用法を批判する。 翻ってスペイン代表は、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が就任直後に、同じく代表のシンボル中のシンボルだったセルヒオ・ラモスに引導を渡すことで、世代交代を加速させ、今大会は若手が躍動した。レジェンドの去り際を扱うのは、いつでも大きな困難を伴う。ロナウドはすでに2026年の北中米ワールドカップ出場への意欲を示している。ポルトガル代表のロナウドを巡る狂騒は、今後も続いていきそうな気配だ。 文●下村正幸
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