性的虐待を繰り返す義父との地獄の10年間、成人後も消えなかった「自分は汚れた体」 同じ被害に遭った人に伝えたい「あなたは何も悪くない」
働きながら鈴木さんがずっと抱き続けたのは、「自分は汚れた存在だ」という思いだったという。「結婚と離婚を複数、経験したのですが、DVもありましたし、流産や中絶の体験も少なくなかった。若いころから、自分の体を男性の性のはけ口だと思い、避妊をせずにどれだけ求められても、なんてことはないという感覚が続いていたんです」 一方、そういう状態に置かれても男性を頼ろうとし、依存してしまう性格は直らなかった。「このまま、自己肯定感が低いままでは同じ過ちを繰り返す。今度こそ、負のループから出なければ」。そう誓ったのは、札幌市で共に暮らした男性と離婚した時で、鈴木さんは40代になっていた。 ▽無意味じゃない 鈴木さんはかつて、25歳だった1996年、雑誌「女性自身」(8月6日号)の「近親相姦を告発する!被害者座談会」という企画に匿名・顔出しで参加し、義父からの性的虐待を証言したことがあった。 その後、公に証言する機会はなかったが、ブログなどに書き込んでいたという。「自分の経験が、少しでも誰かの役に立つなら」。そう思って発信を続けるうち、次第に性被害経験を持つ女性と知り合うようになった。「虐待サバイバーに体験を語る中で、自分の人生は決して無意味なものなんかではなかったということに、だんだんと気づいていきました。それが自分を救うことになったのです」 さらに43歳だった2014年、家庭裁判所に申請し、姓を生まれた時の「鈴木」に戻した。母親の再婚や自身の結婚、離婚などを経て、8回目の改姓だった。「生まれた時の、汚れがない自分」。そんな意味を込めて、手続きを進めたという。
また、自宅の一室で整体院を開き、経済的にも自立することができた。そうして、次第に自身の経験を受け入れられるようになっていったという。 そんな自分の人生を振り返り、「道を踏み外さなかったのが不思議。紙一重で自分が犯罪者にならずに済んできたのだと思う」と話す鈴木さん。 経験を生かして、自分のように虐待を受けていた子どもたちや、受刑者への支援活動をしたいと思うようになったが、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格は、高校中退の自分にはなかなか手が届かない。そこで、宗教者であれば慰問などができると考え、通信教育で仏教を学び、昨年4月、僧侶の資格を取得した。今夏からはNPO法人とともに、児童養護施設を卒業する子どもたちの就職に向けた心理的サポートを始めるという。 支援の中で今後、性的虐待を受けた人たちに出会ったら、どんな言葉をかけますか?そう問うと、自分の体験を伝えた上で、こんなふうに語りかけたいという。「あなたは何も悪くないし、まったく汚れてもいない」
* * 子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する日本版DBSは、学校や保育所に確認を義務付けるほか、国の認定を受けた学習塾なども義務を負う。性犯罪歴がある人は、刑の終了から最長20年採用されないなど、就業を制限される。また、性犯罪歴がなくても、雇用主側が相談を受けて「性加害の恐れがある」と判断すれば、配置転換などの安全確保措置を取る。 * * 読者からの情報提供などを募集しております。こちらにお寄せください。 shuzai.information@kyodonews.jp