「城が大好き」人気気象キャスターが厳選、その地の気候が生み出した「風光明媚」な2つの城
隠れたところにも土地に合わせた築城の工夫があるのです。 ■家光をもてなすための月見櫓 長野県にある国宝・松本城の「月見櫓(やぐら)」は、お月見をするための櫓。戦国時代には考えられない、平和な江戸時代の発想です。 当時の城主・松平直政は、三代将軍・徳川家光のいとこでした。1634(寛永11)年に家光が松本城に来ることになったので、月見の宴でおもてなしをするために、前年の1633(寛永10)年から櫓を増築したそうです。
昼間の月見櫓の中は明るく、とても開放感があります。三方はすべて大きな戸で、外からの日差しがたっぷり差しこんでいるのです。戸を外すと、さらに視界が広がり、屋内からお月見ができるように考えられています。 月見櫓から見上げる月は、きっと格別に美しいでしょう。山の稜線の上に月が輝く様子を肴(さかな)に地酒を飲んだら最高だろうなと、妄想が膨らみます。 昼間の月見櫓からは、美しい山々を眺めることができます。松本市は周りを3000メートル級の高い山に囲まれた盆地です。内陸性気候で1年を通して湿度が低く、空気が澄んでいるので遠くまでよく見えます。深呼吸をしたくなる気持ち良さです。
外側に赤い高欄(こうらん:手すり)があるのも優美に感じられます。外から見たときに、全体的に黒い天守群のアクセントとして高欄の赤が映えています。 さて、江戸時代の話に戻りますが、実は結局、家光は来ることができませんでした。ただ、月見櫓が増築されたことで松本城の魅力が多様になったと私は思います。 ■1つの城に「戦」と「平和」が共存 松本城は、「戦」と「平和」という、2つの顔をもつお城です。 戦国時代に建てられた大天守、渡櫓、乾小天守、江戸時代に増築された辰巳附櫓(たつみつけやぐら)と月見櫓の5つの建物がつながって、天守群を構成しています。
「戦」の時代(戦国時代)の建物には、弓矢や火縄銃で敵を攻撃するための穴・狭間(さま)が115カ所もあります。また石垣を登ってくる敵に、石を落としたり火縄銃を撃ったりしてお城を守るための石落としも見られます。窓は、太い格子がついた武者窓(竪格子窓・たてごうしまど)で、敵の攻撃を防ぎつつ火縄銃を撃つことが可能です。 さらに、天守の目の前にあるお堀の幅は約60メートル、これは火縄銃を精度よく撃てるギリギリの距離です。このように、戦うための設備が各所に整っています。