GPファイナル初出場の紀平梨花は浅田真央氏を超えることができるのか?
浅田真央氏の表現力は15歳の頃から際立っていたが、この時点でのトリプルアクセルという点だけに絞れば、その完成度は紀平が上回っているのかもしれない。 フランス杯ではトリプルアクセルにミスが目立ったが「足に力が入らなかった」と語ったように、11月1日から4日まで西日本選手権、11月9日から11日までNHK杯、中1週で23日から25日まではフランス杯と、この1か月に3大会という超過密スケジュールの中での3連勝だった。肉体、精神共に疲労もピークだったのである。 だが、この1か月で、8度のトリプルアクセルにトライして、3度を確実に成功させた。しかも、NHK杯のフリーで成功させたトリプルアクセル+トリプルトゥループの連続ジャンプには、出来栄え点(GOE)が「2.63」、単独トリプルアクセルには「3.09」もの点数が加点されていた。 紀平のトリプルアクセルは、今シーズンからのルール改正で幅が広がった出来栄え点で加点をゲットできる部分が特徴。中庭氏は、その理由を、こう解説した。 「紀平さんは、ジャンプの質が高いのです。浮き上がるような滞空時間の長い高いジャンプにキレのある回転と、質が高いとされるジャンプに必要な要素がしっかりと入っています。また、今シーズンのルール変更により、回転不足に関しては、厳しく見られる傾向があります。出来栄え点を見るジャッジと、テクニカル(回転不足か否か)を見るジャッジは別々ですが、ジャンプの回転がクリアか微妙か、という問題がのしかかると、出来栄え点への影響が出ます。だが、紀平さんには、その心配が少ないため出来栄え点を獲得しやすいという背景があるのです」 そもそもトリプルアクセルをプログラムに入れることができるだけでアドバンテージとなる。 ルールでは、SP、フリーに、それぞれアクセル系ジャンプを含むことが義務づけられているが、紀平とロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ以外は、トリプルアクセルを跳べないためダブルアクセルを使うことになる。 SPではダブルアクセル単独、フリーではダブルアクセル単独、もしくは、ダブルアクセル+トリプルトゥループの連続ジャンプにするケースが多い。 ダブルアクセルの基礎点は、3.30点しかないが、トリプルアクセルの基礎点は8.00。仮にトリプルアクセルをSPとフリーで1回ずつ計2回成功させると、これだけで9.4点ものアドバンテージを得ることになる。 「だからトリプルアクセルを3本も入れることのできる紀平さんは、大きな武器を持つことになるのです。トリプルアクセルには失敗のリスクがありますが、たとえダブルアクセルになっても他の選手と同じですから。十分に逆転勝利が可能になるんです」と、中庭氏は分析する。 13年前に浅田真央氏は、勢いのまま初出場となるGPファイナルを制した。ソルトレイク五輪銀メダリストで、負け無しの前年度女王だったイリーナ・スルツカヤ(ロシア)を抑えての劇的な優勝だった。 今回GPファイナル進出を決めた紀平の前にも平昌五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワ(16)が立ちはだかる。今季もGPを連覇している。 2年前のジュニアのGPファイナルで2人は対決しているが、紀平は、トリプルアクセルで転倒。ザギトワが優勝して紀平は4位だった。直接対決は、それ以来、2年ぶりとなる。 「点数だけを見れば、全然勝ってもいないし、たどり着いていません。同じぐらいの点数になるまで、まだ時間はかかるかもしれませんが、ちょっとずつ高得点を目指していきたいです。自分がノーミスで滑ることができれば、結果として満足いくと思います。いつも完璧が私の目標なので、完璧を目指します」 フランス杯から帰国した紀平は、しっかりと目標を語った。今季、ザギトワは世界最高スコアの238.43点をマーク、紀平は2位の224.31点で、その差は決して小さくない。紀平がザギトワを「全然たどり着いていない」と目標にするのも当然だろう。だが、紀平が憧れの人でもある“真央超え”への第一歩を踏み出すにはGPファイナルの結果、内容が重要になる。注目のGPファイナルは休む暇もなく12月6日からカナダのバンクーバーで開催される。