『機動戦士ガンダム』なぜジオンは「公国」なの? 王がいない国に公爵がいる理由
ダイクン家もザビ家も元々王侯貴族だった…?
なぜセイラも姫様と呼ばれていたのでしょうか。これはつまり、ジオン・ズム・ダイクンも「旧世紀からの貴族。それも王族」の家柄だったからではないでしょうか。宇宙世紀に身分制度がある理由は、筆者は「宇宙移民を円滑に進めるために、強いリーダーシップを取れる社会的有力者を、地球連邦政府が優遇したため」と考えています。 隕石がぶつかったり、空調制御システムが壊れたり、テロで外壁が破壊されたり、毒ガスが散布されたりしたら人が生存できなくなるスペースコロニーに、地球に住む人たちが喜んで移住したとは思えません。地球連邦政府は各サイドの指導者になろうという、いわばインフルエンサーに特権を与え、それがザビ家のような「名家」となったのではないか、と筆者は推理します。 このインフルエンサーには、国際的に強い社会的影響力を持つ各国の王室も含まれていたことでしょう。ザビ家は地球連邦ができる前から「公爵」だった家柄の分家であり、ダイクン家はザビ家の主家筋の家柄「王族」なのではないでしょうか。 こうしたことから、地球連邦議会の有力議員であったダイクンは、宇宙世紀0052年になって、ザビ家が実質的に統治するサイド3に移住し、そこでリーダーシップを発揮し、ザビ家の政治的バックアップで「ジオン共和国」を建国できたということです。 こうした流れがあるのであれば、ザビ家がダイクン家に一定の敬意を払っていたことも、ダイクンの名前を国号として受け継いだことも、違和感なく理解できます。 つまり「サイド3は元々、実質的な立憲君主国であり、ザビ家の領地に近かった。そこに元々主家筋であり、カリスマ政治家でもあったダイクンがやってきた。サイド3独立を志向していたザビ家にとって、ダイクンの人脈と政治力は得難いものであり、彼を支える方向に舵を切った。地球の王族由来の血筋でありながら、共和制を志向していたダイクンが急死したため、元々のザビ家統治に戻るが、今までダイクンを立ててきたことへの政治的印象を考えて、ジオン公国と名乗った」と考えることができます。 そのさいに「公爵」だったデギンは、ダイクンへの社会的敬意表明と「それまで実質的にサイド3を統治してきた名家・ザビ家の矜持」の間を取って、「本当の王はダイクンなので、公は継続するが、主家はもうないので、王とも名乗る」というのが「公王」という称号だと考えられるわけです。 「公王」という称号は歴史上存在しない、『ガンダム』固有の称号ですが、このように考えるなら、違和感なく受け止められるのではないかと思うのです。
安藤昌季