「空き巣より強盗の方がいい」「あのバーさん死んだってよ」 19歳被告が法廷で語った「ルフィ事件」実行犯の鬼畜
1千万ありますよね
事件当時、Bさんが不在だったのは、たまたまではなかった。直前にBさんのもとに、不審な電話……いわゆる「アポ電」があったために避難していたのだ。Bさんは調書にこう語っている。 「1月19日の17時ごろ自宅にいると固定電話に『竹ノ塚署のタケナカカオリ』を名乗る電話があった。タケナカは〈特殊詐欺グループの犯人を捕まえた。38人ぐらいいた。あなたの家の写真を持っていた。3階建ての家ですね〉と言ったが、しかし私の家は2階建てであることから『2階建てです』と伝えた。するとタケナカは、〈いま、あなた以外に家にいますか。タンス預金は持ってますか。タンス預金1千万ありますよね〉などと言ってきたので『いま家には誰もいない。誰も帰ってこない。タンス預金は3,000万円くらいあります』と答えたが、答えながら、警察がこんな質問をするのだろうかと疑問に思い『あなた本当に警察なんですか』と尋ねると電話は突然切れた。 すぐに竹ノ塚署に電話をして、タケナカが電話をかけてきたかと確認すると『電話はしていない』と言う。さらに竹ノ塚署の警察官は『アポ電強盗が多くなっている。避難した方がいい』と言ってきた。自宅に警察官が来るというので待っていると18時に警察官が到着し、再度、アポ電強盗の説明を受けた。そして21時ごろ、警察官と一緒に貴重品を持ち出し、22時ごろ戸締りをして避難した。以降、自宅には誰もいない状況だった。 翌日1月20日21時ごろ、竹ノ塚署の刑事から電話があり『自宅に空き巣が入られたようだ。窓が破られています』と言われた。幸いに盗まれたものはなかったが、自宅にまた犯人が来るのではと思うと怖くて帰れない」(Bさんの調書より)
言われるがままに海外逃亡の準備
すでに前日の狛江事件は大きく報道されており、足立区の事件で永田も逮捕された。一攫千金どころか警察に追われる身となった中西被告は「堂々と出てほしい」という指示役ミツハシからの指示により、加藤と共にBさんの家を出て、言われるがまま、駅前のマクドナルドに入り、テレグラムで彼らと通話すると〈ドラゴンに所属し、チャイニーズドラゴンと連携する〉ように言われ、流されるまま、海外逃亡の準備を始めることになる。 「もし永田が逮捕されたら、車には身分証などがあるので、すぐに足がついて捕まると言われ、海外逃亡を指示された。自分もどこか現実感なく、加藤はかなりショックを受けていた。自分と加藤は逃亡の準備をするため自宅を目指しました。電車で新宿まで行くと、金がなくなり、加藤と自宅まで歩いて行きました。自宅に着いたらキャリーケースに服を詰め、加藤も同じように準備を進めていました」(被告人質問での証言) 荷造りが終わると、カラオケ店で加藤と夜を明かした。翌朝、指示役から〈カメラのキタムラで偽造免許証用の写真を撮ってほしい〉と、これまた言われるがまま、写真を撮影しデータを送信。偽造免許証ができるのに数日かかると言われ、ネカフェに寝泊まりした。 「加藤は『辛い』と何度も吐露していて、自分も、どうして永田がAさんにあんなことしたのかと考えていました。加藤としては逃亡しないといけなくなった自分の心情がつらいと。自分は、当時スマホでニュース、報道たくさん見ていて、19日にAさんが亡くなった状況を処理し切れていない。自分が関わった事件で亡くなったのだと、逃亡しないといけなくなったんだという現実感が湧いて、自分たちがやったんだと……」(被告人質問での証言) このように悩みながらも、ただ指示役に言われたとおり、偽造免許証を受け取り、パスポートの準備のため、パスポートセンターに向かったが「住所変更が必要」と言われたことから免許センターへ向かう。そこで、免許証の偽造を見破られ、逮捕されたのだった。 中西被告は、自身が加担した強盗について「暴力のない強盗だと思っていた」などと主張していたが、9月6日に懲役23年の判決が言い渡された(求刑懲役25年)。のちに控訴している。実行犯リーダー永田の裁判員裁判は10月18日から始まった。追って報じる予定である。 【前編】では、90歳女性をバールで殺めた、戦慄の犯行現場を詳報している。 高橋ユキ(たかはし・ゆき) ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。 デイリー新潮編集部
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