ジェーン・スー 私は厳しい環境のもと、知恵と工夫で無理難題を解決する作品に興奮・発情する。サバイバル映画は私にとって「夢の実現」なのだ
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「映画」について。サブスクで見た2つの映画にとても興奮したというスーさん。あらためてその理由を考えてみると、ある共通点に気が付いてーー。 * * * * * * * ◆映画に興奮 とある休日。何の気なしに、SNSで薦められていたスペイン映画『ノーウェア:漂流』をNetflixで観た。いろいろあって海に浮かぶコンテナに閉じ込められた妊婦が、孤軍奮闘の末に脱出するサバイバル映画だ。これがすこぶる面白かった。えも言われぬ興奮に呼吸が荒くなった。 ハリウッドで活躍する著名俳優は誰ひとり出ていない。感動大作でもない。個人的な記憶と紐づいて感情が揺さぶられたわけでもない。では、なぜ? よく理解できぬままその日は床に就いたが、気が高ぶってよく眠れなかった。 数日後。今度はU-NEXTで『フライト・ゲーム』を観た。こちらはうらぶれた航空保安官が、犯人不明のままハイジャックされた旅客機内で悪戦苦闘する話。リーアム・ニーソンやジュリアン・ムーアといったハリウッド俳優が出演しており、ジャンルとしてはサスペンスアクションになるらしい。私はこれにも大いに興奮した。
◆「制限された環境での創意工夫」が大好きだ 映画作品に心を揺さぶられるとき、私がもつ感想は「いい話だ」とか「脚本がよくできている」とか「俳優の演技が素晴らしい」とか「見たこともない演出だ」とか、まあそんなところである。しかし、この2作品にはもっと根の深いところを刺激され、発情した。 お茶を淹れ、腕を組んで考える。まずは2作品の共通点を挙げてみようと思い、すぐに気が付いた。私は「制限された環境での創意工夫」が大好きなのだ。 海に浮かぶコンテナと、長時間密室状態の旅客機。サバイバルには役立たずの積み荷を、知恵と工夫で生き延びるための道具に変える勇敢な妊婦と、搭乗客のなかから役に立つ人材を見つけ出し難題を解決していく保安官。どちらも時間は限られており、命の危険に晒されている。 そういえば昔、サーファーがひとり海に放り出され、サメと戦う映画を観た。なんとかしてサメに襲われないよう、主人公が岩場で踏ん張っていた中盤までは集中して観ていたが、サメとの戦闘アクションばかりになった後半は、興ざめしてしまったのを覚えている。あれは、創意工夫の場面が終わったからだったのだろう。 艱難辛苦(かんなんしんく)を共にした仲間が極限の状態に陥って人間の嫌な部分を露わにするようなドラマや、ひたすらモブ(群衆)が死ぬような作品も好きではない。サバイバルならなんでもいいわけではないのだ。
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