<孤独の現場から>冬休みも注意したい子どものオーバードーズ 周囲にできること
年の瀬を迎え、学校は冬休みに入った。 多くの子どもたちが家族だんらんの時を過ごす中、家庭不和や虐待などに苦しみ、孤立を深める子どももいる。 近年ではつらい現実などから逃れるため、若者の間で風邪薬などの市販薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)が広がっている。 国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長で、精神科医の松本俊彦さんにODの現状と当事者に接する際の注意点を聞いた。【千脇康平】 ◇高校生の60人に1人が経験 同センターによると、薬局で簡単に手に入る市販薬の一部には、麻薬や覚醒剤に似た成分が少量含まれる。 これらを決められた量や回数を超えて摂取すると、幻覚やけいれん、気分の高揚を引き起こしたり、依存症になったりする場合がある。 同センターが2021~22年に全国80校の高校生計4万4613人を対象に実施した調査では、過去1年間にODを経験した人は全体の1・6%で、60人に1人が該当した。これは、大麻の使用率の約10倍に当たる。 また、総務省消防庁と厚生労働省の調査によると、ODが原因と疑われる23年1~6月の救急搬送件数は計5625件で、このうち10~20代だけで46・0%の2588件を占めた。 松本さんによると、薬物などの依存症に至る背景には、①否定される関係②支配される関係③本当のことを言えない関係――というゆがんだ人間関係があることが多い。 例えば、親から否定ばかりされる子どもは、「自分はダメな人間なんだ」「いないほうがいい存在なんだ」といった感情を強く抱くようになる。 「次第に本音が言えなくなり、嫌なことがあっても一人でため込んでしまう。つらさに蓋(ふた)をするものとして、アルコールや薬物が役に立ってしまうのです」 そのうえで、松本さんは当事者の家族、友達、学校の先生に向けて次のようなアドバイスを送る。 ◇<家族> 心配のあまり感情的になってしまうのは致し方ない面もありますが、怒鳴ってしまえば本人はますます口を閉ざしてしまいます。 不在のときに本人の部屋に入って、薬を探したりすることはもってのほかでしょう。 「薬があなたにとって、どんな役に立っているの?」 「最近、前よりも量が増えているみたいだね。何かあったの?」 良い悪いはひとまず脇に置いて、そんなふうに語りかけてみてはどうでしょうか。 ODの背景にあるものについて話し合える関係性を意識してみてください。 保健所や精神保健福祉センターなどにサポートを仰ぎ、子どもと落ち着いて話ができるようになってほしいと思います。 ◇<友達> ODは決していいことではないけれど、「キモい」とか「メンヘラ」(メンタルヘルスに問題を抱える人を指すネットスラング)などと言って当事者と距離を置かないでください。 ODをしなければ、みんなと同じように生活できない状態の子がいると考えてあげてほしいのです。 「一緒にスクールカウンセラーの先生のところに行かない?」 「保健室の先生に相談してみない?」 そんなふうに声をかけ、信頼できる大人につなげてあげてください。 ◇<学校の先生> 依存性のある成分を含む薬の服用を急にストップすると、離脱症状で気分が落ち込み、かえって自殺のリスクを高めてしまう恐れがあります。 頭ごなしに「今すぐやめろ」と否定するのではなく、「医師に相談し、ちょっとずつ減らしながら解決したほうがいい」などと促してあげてください。