斎藤前知事の失職に学ぶ「令和のリーダー」が守るべき“たった一つ”のこと
◆「言いたいことが言えない」状況
事の発端となった告発文書が出されたり、先のアンケートで数々の乱暴な言動が明らかになったりしたのは、強すぎる知事に対しては直接「言いたいことが言えない」という状況であったことがうかがい知れます。 「言いたいことが言えない」状況、これは最近の組織統治の問題点として「心理的安全性の欠如」と呼ばれています。 すなわち、「心理的に安全な状態」とは、何を発言しても頭ごなしに否定されたり、つぶされたりせず、自身に不利益が降りかかってくる心配がない、安心して思ったことを発言できる状況をいうのです。 「心理的安全性の欠如」の発生の大きな原因の一つは、リーダーの強すぎる言動であり、最悪のケースでは組織ぐるみの不祥事にもつながります。一例を挙げるなら、昨年大きな話題となった中古車販売会社「ビッグモーター」の損害保険不正請求などの不祥事です。 同族経営トップの有無を言わさぬ強権経営が、明らかな原因となっていました。トップの指示・命令に疑問を感じてもそれに反論することが降格・減俸・左遷など自己の不利益につながると察知し、多くの社員が無言のうちにこれに従ったことで不祥事が広がったのでした。 「心理的安全性の欠如」は、強いリーダーが不在の組織でも発生します。 トヨタグループをはじめ続発する自動車業界の認証不正や、神戸製鋼、三菱電機などで起きた検査不正の類いは皆、強権とは程遠いサラリーマン・リーダーの組織でありながら、指示を出している本社や親会社に物が言えず不正に走ったものです。 昭和の時代に形作られた、「親会社>子会社」「本社>現場」というコミュニケーション不足な無言の旧日本的ヒエラルキーが、「言いたいことが言えない=心理的安全性が欠如」した状況を作り出したのです。
◆「心理的安全性」を向上させるたった一つのポイント
このように「心理的安全性の欠如」は、組織のトップが強いリーダーであろうとなかろうと起こりうるわけですが、共通していえることはリーダーのコミュニケーションの取り方に問題があるということです。 強いリーダーの場合には一方的な命令コミュニケーションが圧となり、そうでないリーダーの場合にはコミュニケーションの欠如が無言の圧を生んで、共に「言いたいことが言えない」という組織風土をつくり上げてしまうのです。 しかし、働き方改革の定着で「働きがいだけ」でなく「働きやすさ」の実現が求められる令和のリーダーにとっては、「心理的安全性の向上」は最も重要な施策であるといえるのです。 では「心理的安全性」を向上させるために、リーダーはどうしたらいいのでしょうか。この問題のポイントは、たった一つです。リーダー自らが積極的に「聞くコミュニケーション」を心掛けることに尽きるのです。 「聞くコミュニケーション」とは、自ら話す、指示することばかりに注力するのでなく、まず相手の意見を聞く、相手の提案を聞く、相手の不満を聞くといった姿勢を日頃から大切にすることです。これが定着することで、「誰もが言いたいことが言える」組織づくりは実現できるようになるのです。 これから出直し選挙に臨むという斎藤前知事ですが、「誰もが言いたいことが言える県政づくり」が選挙の争点に浮かび上がるのではないでしょうか。 <参考> 兵庫県議会 文書問題調査特別委員会
▼大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。
大関 暁夫(組織マネジメントガイド)