井岡一翔が6.19幕張・4階級制覇再挑戦を「最後のチャンス。人生かけて戦う」と決意する理由
スーパーフライ級に転向してからの2試合で、井岡は、これまでのできるだけリスクを負わない戦いから脱却し、新しい領域に向かおうとしている。肉体改造にも取り組み、「体重が増えて体が厚くなった」。だが、ベルトを腰に巻くには、さらに、もう一歩、先に踏み出す勇気が必要だと考えている。その方向性は正しい。 「経験を生かし、戦い方を考えて、自分が力をつけている部分を信じて準備をしたい。自分のウィークポイントを理解した上で、戦術も含め、リングに上がったときにすべての面で上回っているということしか考えていない」 KO決着が理想だろうが、キャリア28戦で25勝のうち21試合をKO決着しているフィリピン人相手の決定戦が、そう甘い戦いにならないことはわかっている。パリクテはガードは堅いが、ボディに若干の隙がある。井岡が、勝つには得意のボディからスピードを生かしてポイントを積み重ね、12ラウンドをトータルでマネジメントするしかないだろう。だから大口は叩かない。 「KO決着? もちろんそうです。でも、勝てば正直なんでもいい。勝ちさえすれば次につながる」 井岡の切羽詰まった感がわかる。 会見の冒頭で語った「背水の陣」「人生をかける」の真意を問う。覚悟とは「負けたら2度目の引退」ということなのだろうか。 「そこまでの言葉。(負けたら)引退とかを試合をやる前に決断するのは考え方として違うと思う。もしかすると、自分の決断じゃなくとも、そうならざるをえない、という危機感を感じている。もっと前向きに4階級制覇をする。もちろん簡単なことじゃない。怖さもある。プレッシャーもある。人生かけている職をなくすんです。そういった気持ちで挑む」 これが井岡流の哲学。スポンサーの「SANKYO」とTBSが井岡のスター性にかけてバックアップしているが、負ける度に商品価値が落ちていくのが、ボクシングビジネスのシビアな世界である。いつ「職業・ボクサー」の肩書を奪われるかわからない。プロデビュー10年となる井岡は、ボクシング界の裏も表も見てきて、その実態を知っているからこそ「人生をかけて」と悲壮な決意で挑むのである。 日本での試合は、2017年4月23日にノクノイ・シットプラサート(タイ)に判定勝利してWBA世界フライ級王座のV5に成功して以来。「場所を問わず、このタイトルに挑戦できる意味のほうが大きい。海外でもよかったが、こういうタイミングで日本で試合ができることはありがたい。海外で試合をして成長している姿を見せたいし、今どう挑戦して4階級に向かってやってきたかを試合の結果として見せたい」とも語る。 会見最後の写真撮影の際、カメラマンに用意した3つの過去の世界ベルトを肩にかけてくれとリクエストされた井岡は、やんわりと断った。それは過去の栄光。4階級制覇の偉業に挑む今、思い描くのは未来の自分だ。 「21歳で初めてミニマム級の世界王者となった。30歳になって4階級に挑むとは、想像もしていなかった。人としてボクサーとしても節目。積み重ねてきたから今があるが、ここからが新たな挑戦。未知な部分もあるが、思い描くことを現実化することを証明したい。何かの夢を持って、何かを目指す人たちへメッセージとして届けられるものがあると信じている」 井岡は、今日20日に渡米。約2か月にわたって「試合のギリギリまで」ラスベガスに滞在して専属トレーナーのイスマエル・サラストレーナーの指導のもと調整を進める予定だ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)