日本被団協がノーベル平和賞に決まった訳 授賞理由を読み解く
なぜ今、日本被団協にノーベル平和賞が授与されるのか―。ノーベル賞委員会の授賞理由を読み解くと、「高まる核脅威への強い危機感」と、高齢の被爆者たちの証言がいずれ聞けなくなる「風化への切迫感」が色濃く見える。核兵器廃絶へ、次世代の若者たちの行動を後押しする狙いもありそうだ。 【写真】涙でくもったファインダー 原爆投下の8月6日とらえた5枚だけの写真
●核のタブー
「核兵器使用は道徳的に許されないと烙印(らくいん)を押す力強い国際的な規範」。ノーベル賞委員会のフリードネス委員長は授賞理由で、これを「核のタブー」と呼び、確立に向けた日本被団協と被爆者の「並外れた努力」をたたえた。 その上で、「タブー」が圧力にさらされていると憂慮する。背景に、世界で高まる核使用のリスクがある。2022年2月にウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、核使用を示唆する発言を繰り返す。先月には核兵器使用のハードルを引き下げる指針改定案を公表した。 中東も危険水域にある。23年10月にイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの間で始まった戦闘は、レバノンやイランを巻き込み悪化の一途をたどる。イスラエルはイランの核施設を標的にしているともされる。 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、24年1月時点の世界の核弾頭数は推定約1万2千発。米ロが各5千発超で突出しているが、500発の中国も30年ごろには千発に増えるとの見方がある。 「核兵器保有国は兵器の近代化と改良を進めている。新たな国々が、核兵器を手に入れようと準備を進めているように見える」 授賞理由では、核拡散への懸念だけでなく、核軍縮に逆行する保有国の批判にも踏み込んだ。核兵器を「世界がかつて経験した最も破壊的な兵器」「文明を破壊する」と断じ、被団協に平和賞を贈ることで、核の脅しや核抑止論に向かう国際社会に強い警告を発した形だ。
●継承の課題
「いつか、歴史の目撃者としての被爆者はいなくなる」。ノーベル賞委員会は被団協の苦難の歴史と功績を評価し、次世代への継承を促した。 被爆者の平均年齢は85歳を超す。被団協の地方組織の解散も相次ぎ、運動を次代にどうつなぐかは喫緊の課題だ。 その中で「記憶を守る強い文化と継続的な関与により、日本の新たな世代は被爆者の経験とメッセージを引き継いでいる」とし、「核のタブー」維持に貢献していると励ました。フリードネス委員長は「今回の授与が、被団協の活動が次世代に受け継がれるための刺激となってほしい」と述べた。 広島市立大広島平和研究所(安佐南区)の大芝亮所長は「『受賞は良かった』で終わるのではなく、被爆地はなぜ今受賞に至ったのか世界の危機に思いをはせ、次の時代の運動の形を描き直すきっかけにしなければいけない」と指摘。伝承者の育成や被爆者の証言映像のアーカイブ化の促進、国際社会への発信力強化などを挙げ「今から広島・長崎の責務はますます重くなる」と強調する。
中国新聞社