同族・中小企業の事業承継が日本経済を救う/ベンチャーやM&Aを超える「第2創業」の可能性とは~入山教授インタビュー全4回の1回目
◆同族企業は「長期志向」のチャレンジができる
――同族企業の承継者というと、ややネガティブな受け止めが社会にはありませんか。 それはまさにメディアの問題ではないでしょうか。同族企業の骨肉の争いや御曹司の不祥事を面白おかしく取り上げることが多いですからね。しかし同族企業の現状はメディアが振りまくイメージとは少し異なります。 京都産業大学の沈政郁(シム・ジョンウッ)教授らが日本の同族企業について2013年に「ジャーナル・オブ・フィナンシャル・エコノミクス」に発表した論文をみると、上場企業に限りますが、過去40年で同族企業の方が利益率も成長率もそうでない企業よりも高いことがわかります。 それはなぜかというと、同族企業の方が経営に長期志向があるからです。 同族企業でなければ社長は4年、6年で交代します。せいぜい6年先のことしか考えません。 企業の変革は10年、20年かかることもあります。社長の任期が4年、6年の人は10年先の未来に責任を持つとは思えません。 それに比べて同族企業は社長の任期が長く、「うちの事業は10年後、20年後はしんどいよね。難しいかもしれないけど、こういう新しい分野に投資しよう」となります。 つまりイノベーションに必要な「知の探索」をしようとするわけです。 「知の探索」はすぐには成果が見えないことが多く、長期志向が必要です。 長期志向がある同族企業の方が、実はイノベーションを生み出す可能性が高く、長期的に利益率も成長率も高いということが言えます。 ――同族企業に問題はないですか。 事業承継のガバナンス問題があります。事業承継で問題になるのは、人間ドラマです。 「あいつはムカつく」「あいつは馬鹿だ」「やっぱり俺がやった方が良い」といった人間ドラマが起きてしまいます。 そんなときに「子供に継がせると一旦言ったら、口出ししちゃだめですよ」と影響力のあるOBや社外の信頼できる人が発言して、一定の規律を効かせる仕組みを作っておくことが大事です。 (文・構成/安井孝之)
入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年 に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク 州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田 大学ビジネススクール准教授。 2019 年より教授。専門は経営学。