同族・中小企業の事業承継が日本経済を救う/ベンチャーやM&Aを超える「第2創業」の可能性とは~入山教授インタビュー全4回の1回目
◆「教科書」が存在しない事業承継問題
――なるほど。そうすると望ましい事業承継を増やさなければいけませんが、そのために今、足りないものは何でしょうか? 一番足りないものは「知識」と「情報」です。なぜかと言うと、事業承継のほとんどは家業の事業承継です。一つ一つが千差万別で「教科書」がないのです。 企業ファイナンス理論や投資理論、財務諸表の見方などなら非常に分かりやすい教科書があります。 しかし事業承継はいろいろな要素があります。親と子供、つまり事業を手渡す先代と受け継ぐ2代目、3代目との人間ドラマがあり、予期せぬことがたくさん起きます。従って事業承継には分かりやすい教科書はありません。いろいろな情報の中で承継者が自分にあったものを自分の力で考え抜いて選択する必要があるのですが、それがとても難しい。 ――教科書はなかなか書けませんか? 中小企業の事業は家業ですから、これまで苦労なさったことをあまり世間に向かって話されていないし、話を聞いてくれるメディアもありませんでした。教科書を書くのもなかなか難しいですね。 ――ではどうすればいいでしょうか。 僕は「一般社団法人ベンチャー型事業承継」という組織の顧問を引き受けています。 そこでは事業承継者を集めて、成功者と悩んでいる人たちとが情報共有するとともに、僕たちがメンターとなって指導しています。しかし、インナーサークルの情報交換にとどまっています。 もっとオープンに事業承継の事例、課題、解決法、承継者の悩みなどを紹介するメディアがあればいいと思っています。 事業承継で成功するための教科書はないので、事例から学ぶことしかできません。 困っている若い承継者の方々や、継がせたいけれども決断できず悩んでいるお父さんやお母さん、周囲の番頭さん、社員さん、銀行の関係者、事業承継に関わるたくさんの方がメディアから学び、「こういうやり方もあるのか!」「うじうじ悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こうすればうまくいく可能性があるんだな」と知ってほしいと思います。そういうメディアが必要なのです。 メディアで自分や会社が取り上げられると、経営者本人もやる気が出る。人間に本来ある承認欲求も満たされ、自己肯定感につながって、さらに挑戦しようとするのです。 日本には事業承継というものの認知や啓蒙を働きかけ、情報を提供する試みは極めて少なかったのです。