「国有化」ルネサス、柴田社長が大型M&Aで復活主導-株価は10倍超
16年に米インターシルを約3500億円で買収したのを皮切りに、経営財務責任者(CFO)からCEOに昇格した19年には米IDT、21年の英ダイアログなどアナログ半導体企業を相次いで買収。今年2月にはソフトウエア企業のアルティウムを約8900億円で買収すると発表し、これまで9件、計約2兆6000億円に上る案件を手掛けてきた。
ブルームバーグ・インテリジェンスの若杉政寛アナリストは、IDTの買収以降、柴田氏が買収先の幹部をルネサスの役員に登用したり、組織のグローバル化を進めたりしたことを評価。「ルネサスは買収を重ねたことで違う会社になった」と話す。大型買収によるのれんは大きいのは事実だが、利益が出ている企業を買収しているので「懸念はしていない」とした。
一方、岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストは、アルティウムの買収について、「M&A戦略の方向性がずれてきているのがやや懸念」だと指摘する。マイコンを中心とする既存事業の強化にどれだけつながるかが不透明で、「ソフトウエアは自社で全部抱え込むより提携の方が顧客拡大につながるのではないか」とした。当面は心配ないが、今後投資に対するリターンがなければ評価減しなければいけないリスクも出てくるかもしれないとの見方を示した。
財務は堅調
ただM&Aを重ねても財務は堅調だ。買収攻勢などで膨らんだ有利子負債は前期末に6677億円と一時より減っている。自己資本比率も近年は改善傾向を続け前期末時点で63%と良好な状態。INCJはルネサスの復活に伴って段階的に株式売却を進め、昨年には保有がゼロとなった。前期はルネサス発足以降で初の復配も果たしている。
半導体市場をけん引するエヌビディアの画像処理装置(GPU)が一つ数百万円するのに対し、ルネサスでは家電や自動車などに使われるマイコンでは単品で数十円から数百円の製品もあるなど大きな開きがある。そうした中でもルネサスはM&Aを通じて足りない技術を補い、各個の製品をパッケージ化した上で性能やコストを顧客に提案する手法で販売を拡大、10年前には30%台だった売上総利益率も前期は57%にまで高めた。