AMG エリート・レーシング・サークルが凄い！

このトラックシリーズよりも、一歩、いや半歩ほどコーナリング志向を強めたサーキット走行専用モデルが、現在発売中のメルセデスAMG GT2 プロ（以下、「GT2プロ」と表記）である。 こちらはロードカーベースのトラックシリーズとは異なり、純レーシングカーのメルセデスAMG GT2がベース。ただし、ご安心いただきたい。このGT2と呼ばれるレースカテゴリー自体がジェントルマンドライバー、つまりアマチュアドライバーを対象としたもので、“ホンモノのレーシングカー”であるGT3とは違って、あくまでも扱いやすさ優先で開発されているのだ。 そのうえで、GT2レーシングカーにはない“プッシュ2パス”と呼ばれる機能を装備。これは707psの最高出力を一時的に750psまで引き上げるもので、前述したトラックシリーズ同様、ストレートでGT3マシンを置き去りにするほどの速さを披露してくれるのだ。 今回はそのベースとなったメルセデスAMG GT2を少しだけ味見できたが、操作系の感覚はトラックシリーズとほぼ変わらないながらも、その足回りからはトラックシリーズを上回るポテンシャルを感じ取ることができた。 しかも、GT2 プロには、メルセデスAMG GT2やトラックシリーズでは体験できない特別なプログラムが用意されている。それが、AMG エリート・レーシング・サークル（ERC）と呼ばれる一種のメンバーシップである。 AMG ERCに加入できるのは、いまのところGT2 プロのオーナーのみ。しかも、GT2 プロの販売台数は世界限定20台なので、極めてエクスクルーシブなクラブといえる。 このクラブは、メルセデスAMGのカスタマーレーシングチームとして圧倒的な実績を誇るGMRにその運営が任されている。GMRの名に聞き覚えはなくても、ニュル24時間やスパ24時間などで活躍するレーシングチーム“GruppeM”であれば知っているというレースファンは少なくないはず。つまり、世界最高峰のレーシングチームからのバックアップを、ERCのメンバーは受けられるのだ。 GMRは、GT3レースとしてはやはり世界最高峰に位置づけられるGTワールド・チャンピオンシップが開催されるのと同じ週末、同じサーキットにおいてERC専用の走行イベントを実施。そこでは、ERCメンバーひとりひとりのために準備されたセッティングツールやレーシングギアなどがガレージに用意されるだけでなく、専属のメカニックやエンジニアも配備。トップチームならではの万全のサポートとぜいたくなホスピタリティを満喫しながら、サーキット走行を堪能できるのだ。 ちなみに、GMRは日本の顧客向けにごく限られた台数のGT2 プロを確保しているので、ERCに加入するチャンスはまだ残されている。しかも、開催初年度となる2024年には、GTワールド・チャンピオンシップと同じタイミングで鈴鹿サーキットならびに富士スピードウェイでのイベント開催がすでに決定しているから、日本人ドライバーにとっても参加の敷居は低いはず。もちろん、ERCのメンバーになれば海外のイベントにも参加できるので、F1で見たあのサーキットを自らの手で疾走することも夢ではない。 しかも、トラックシリーズにはレーシングカーと同等の強力なブレーキが装備されているので、ストレート後のシケインにも余裕を持ってアプローチできる。ちなみに、私はモンザのストレートエンドで290km/hをたびたびマークしたが、そこからハードブレーキングを繰り返しても、ブレーキングペダルの感触は一切、変化しなかった。ロードカーに比べてブレーキ踏力が圧倒的に大きい点には慣れが必要だけれど、シートポジションを適切に設定できれば、おそらく多くのドライバーがその強大なストッピングパワーを体験できることだろう。 そして走行を終えてマシンから降り立ったとき、いかにもレーシングカー然としたトラックシリーズを御したことに、ロードカーを走らせたときとはまた別の達成感と喜びがわき上がってくるはずだ。