ウエイトリフティング鈴木梨羅 パリ五輪でメダル獲得へ 日本女子4大会連続メダルなるか?
日本記録がゴールではない世界に1㎏でも近づきたい
──パリ五輪の最終選考となった今年4月のワールドカップでは、自己ベストのトータル194㎏を超える197㎏(スナッチ85㎏、ジャーク112㎏)の日本記録を出しました。 「振り返ると、そこで日本記録を取るという目標だったら取れていなかったかもしれません。私の目標はオリンピックでメダルを取ることなので、オリンピックをイメージして練習して試合に臨んだら、そういえば日本記録だったという感じでした」 ──2本目の試技で、すでに195㎏の日本記録を出しましたが、3本目にも果敢にトライしました。 「2本目で、自分が持っていた世界ランキングの194㎏に1㎏上乗せできたので、正直3本目はやらなくてもよかったんですが、日本選手団の一員としていい流れを作りたいというか。何かみなさんに与えられるものがあればいいなという思いで3本目に臨みました」 ──3本目、得意のジャークで110㎏から112㎏まで伸ばし、トータル197㎏に。 「オリンピック最終予選の最終試技をやらずに終えるよりは、自分のためにも、後に続く選手のためにも日本記録を取って終わりたいなって。勝手に自分が思っただけですが(笑)、実際に記録を更新すると、やはりみなさんが喜んでくれて。やって良かったなと思いますし、ここが自分のなかでゴールではないので、日本ではなく世界の記録に1㎏でも多く近づけるように頑張っていきたいです」 ──パリ五輪で目指す重量は? 「予想ではメダルラインがトータルで205㎏かそれ以上になるかなと思っています。自分のベストは197㎏なので、そこから205㎏まではプラス8㎏、さらにプラスして、トータルで210㎏を狙う気持ちでいます。具体的にはスナッチ92㎏、ジャーク118㎏ぐらいがボーダーラインになるかなと。練習を重ねるなかで目標は変わったりすると思いますが」 ──パリ五輪本番まで、ひたすら重量を挙げていく日々になる? 「でも、がむしゃらにやっているだけでは怪我をするので、頭を使ってやるべきことを冷静に判断して。たとえば、今の時期は焦って種目を追い込むより、筋力アップのための筋トレを重視する時期なんですね。あとは本数。高重量だけにこだわらず、8本、5本と本数をこなせる重量の底上げをしていくところから、少しずつ進んでいくプロセスです。うまくいかないことも本当に多いんですが(苦笑)、こうやって過ごしている日々が、運を味方につけることにもつながるのかなと思うので」 ──今は筋力を上げる時期とのことですが、オリンピック本番と同等の重量を練習で挙げる時期はいつごろになるのでしょうか。 「だいたい4週間前ですね。ただ、MAXの重量は挙げきらないようにしています。試合では練習以上の力が出るんですが、試合で挙げたい重量と同じくらいの重量を練習で触ってしまうと、ピーキングが合わないというか。どんなにうまくトレーニングを積めていても、最高のパフォーマンスは半年に1日できるか、できないかという世界なので」 ──その限られた1日を、パリでの試技に合わせなければいけない……。 「だから、練習ではやりすぎないように。とはいえスナッチ3本、ジャーク3本の試技を行うにあたり、スタート重量(1本目の試技の重量)を何㎏にセットするのがベストなのか、理想と現実をかみ合わせることも必須なので、私の場合は4週間前にちょっと重めの重量を触って、そのときの感覚と重量でスタート重量を決めるようにしているんです」 ──本番から逆算して、この時期にすべきトレーニング、挙げるべき重量を細かく設定していく。本当に緻密な競技ですよね。 「だからこそ、1日の調子に一喜一憂せずに、少しずつでも足を止めず進み続けるのが本当に大切で。今日も練習的には目標重量には全然届かずに終わってしまったんですけど、でも、立ち止まっているよりは全然いいかなって。調子がいいときには感じられない感情や感覚も、こういうときにこそ学べるので。重量を増やしていくだけではなく、あらゆる面で1日、1日を100%で臨んで、パリに向かいたいと思います」
取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史