『源氏物語』誕生でまひろと道長の関係も大きな転機に…ついに1本化した2人の世界線【光る君へ】
『源氏物語』の重大なコンセプトをまひろに与えた道長
光る君の父・桐壺帝については、数世代前の天皇がモデルという説が有力。そのため一条天皇がモデル・・・というより、一条天皇と皇后・定子(高畑充希)の影の部分(つまり、清少納言が書かなかったもの)を、そのまま物語に落とし込んだというのは意外な発想だった。 もしそれがビンゴだとすると、天皇が神聖視されていた当時、今上天皇のスキャンダルを物語にするだなんて、不敬に近いほど大胆な行為のはず。それはもう、道長くんならずとも「こんなのあり?」という心境になるってものだろう。 しかしまひろが、前代未聞の物語を生み出すことができたのは、天皇やその周囲の人間の人となりを間近で、しかも客観的な視点で観察し続けてきた、藤原道長という心強いアドバイザーがいたからではないか。 実際道長がまひろに語る天皇の姿は、あがめ奉る存在というより、かわいい甥の思い出を語る叔父に近いように思えた。道長は「紙」という物理的なサポートだけでなく、創作面でも「高貴な人たちも私たちと同じ人間で、彼らを通じて『人間』を描く」という『源氏物語』の重大なコンセプトを、まひろに与えるという役割を果たしたわけだ。 今までまひろと道長の関係は、道長が月を見ることでまひろの存在を意識していたことを打ち明けていたように、まひろが道長の政治的ポリシーに大きな影響を与え、精神的な支柱になってきたという印象だった。 しかしこの31回では、道長がさまざまな手を尽くしてまひろを「紫式部」にトランスフォームさせていくという、ある意味立場が逆転する感じに。今回は『源氏物語』誕生というイベントに加えて、まひろと道長の関係も大きな転機を迎えたという点でも、重要なターニングポイントだったと言える。 これまではまひろサイドと道長サイドで、違う物語が平行線で進んでいる感じだった『光る君へ』だけど、『源氏物語』作者&プロデューサーという公の関係性ができたことで、2人の世界線はあざなえる縄のように、ほぼ1本化していくことになるだろう。 その新章突入が楽しみな反面、ことごとく道長と微妙な関係となった妻たちに、まひろのことがバレたときにどうなるか・・・次週予告では、すでに倫子が疑惑の目を向けるようなので、勝手にヒヤヒヤしながら一週間を過ごすことになりそうだ。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。8月25日放送の第32回「誰がために書く」では、まひろの書いた物語に一条天皇が興味を示し、まひろが彰子の女房として、宮廷に出仕することになるまでを描く。 文/吉永美和子