TOPメーカーが“デジタル手帳”に挑戦し始めた背景とは 「令和はデジタルとアナログの二刀流」
新年に向けて、新たに手帳の購入を検討する人も多いのではないだろうか。アプリやGoogleカレンダーなど、スケジュール管理のデジタル化も進むなか、書店や文具売場にはずらりとアナログ手帳が並ぶ。なぜテクノロジーがここまで発達した現代にもかかわらず、アナログ手帳の人気はいまだ衰えないのだろうか。 【写真】株式会社NOLTYプランナーズで販売しているデジタルプランナーと手帳 今回は、70年以上の歴史を持つ老舗手帳メーカー・株式会社NOLTYプランナーズにインタビュー。 デジタル手帳とアナログ手帳のそれぞれの魅力と使い方、そして令和のいま、現代人は手帳をどのように使っているのかについて話を聞いた。 ・令和の手帳事情って? 今回お話をお伺いするのは、NOLTYブランドの手帳等の商品を、BtoB向けにカスタマイズ提案をしている株式会社NOLTYプランナーズだ。手帳といえばでお馴染みのブランドだが、その歴史は長い。1949年に日本で初めて時間目盛入りのビジネス手帳である『能率手帳』が誕生し、昔から日本のビジネスパーソンを支えてきた。 筆者は普段Googleカレンダーでスケジュールを管理している“デジタル派”で、アナログ手帳には馴染みが薄い。まずは手帳にはどういった種類があるのかについて、NOLTYプランナーズのマーケティング本部企画部部長・郡山幸憲氏に解説してもらった。 「手帳はサイズやレイアウトの組み合わせが本当にたくさんあり、使う人によってさまざまなのですが、NOLTYブランドでは月曜始まりの手帳が多いです」もともと、『能率手帳』という企業向けの手帳のイメージが強かったこともあり、NOLTYでは“仕事が始まる月曜日”を週の始まりに設定しているようだ。 「約30年前から完全週休2日制の流れになり、土日に続けて予定が入ることもあるという声があって、現在のレイアウトが主流になりました」日曜始まりのタイプも販売しているようだが、主流はやはり月曜始まりだという。レイアウトひとつ取っても、誰がどんな目的で使うのかによって手帳の選び方は無限大だ。 そして現在は、約8割のユーザーが“1月始まり”の手帳を購入しているようだ。「年が明けて気持ちが熱いうちに、1年の目標を書く方が多いですね。でも企業や学校などでは、“4月始まり”の手帳も需要があります。1月始まりに比べたら後発のタイプなのですが、4月始まりも徐々に需要が伸びてきています」 手帳は1月始まりと4月始まりが基本のようだが、全体的なレイアウトはどんなタイプがあるのだろうか。「1か月がひと目でわかる月間ページのあとに、1週間のスケジュールが書ける週間ページがあるタイプが1番人気ですね。さまざまなレイアウトがあるので、自分好みの組み合わせを見つけて、楽しく使っていただけると嬉しいです」 昔から変わらず必要とされ続けている手帳だが、最近はその使い方が徐々に変化しているという。「スケジュールを細かく書き込むというよりかは、自由に書けるメモのスペースが多いものが人気を集めています。日々の出来事を書いたり、忘れたくないことを記録していくようなスペースがあるレイアウトが人気ですね」 そんな手帳の使い方をしているのは、日本だけではないようだ。「海外では手帳を気持ちの整理に使ったり、日記として使ったりする傾向もあるようです。時間管理というより、自分の気持ちを整えるリフレクションとして使用しているみたいですよ」 ・老舗メーカーがデジタルに踏み切った背景とは 手帳の使い方が徐々に変化しているなか、NOLTYプランナーズでは2024年4月からデジタルプランナーの販売を開始した。デジタルプランナーとは、iPadやタッチペンシルを使って、デジタル化されたノートアプリに書き込むというものだ。 70年以上の歴史を持つ老舗ブランドがデジタルに踏み切った背景について、郡山氏はこう語った。「最初のきっかけは、iPadでノートをとっていた社員がいたのが始まりです。みんな手帳が大好きで入社している会社なのですが、その社員は『iPadでノートをとるのが意外と楽しいですよ』と言っていて。それを聞いて周りは『どうした!?︎』という感じではあったのですが、そこで否定はせずに、『面白い』という受け取り方をしたんです」 NOLTYは、2013年に『能率手帳』から『NOLTY』へとブランド名を変更している。その背景について、郡山氏はこう明かした。「ビジネスパーソンが使う手帳というイメージから、全世代の方にも、NOLTYというブランドを通して“成長支援”をしていけるようにリブランディングをしたからです」 「私たちNOLTYプランナーズは、NOLTYというブランドのカスタマイズ提案を通して、みなさまの成長や、豊かな人生のために『自分の時間をデザインする』ためのツールを提供し、支援することが目的です。アナログでも、デジタルでも、その目的が果たせるのであれば挑戦したいと思っています」ただ、長きにわたってアナログ手帳を販売してきた組織だからこそ、デジタルへの挑戦は波紋を呼んだという。「デジタルプランナーの販売を開始した当初は社内がざわつきましたし、いまも若干ざわついています(笑)」 社内でも驚きの反応があったデジタル化への挑戦だが、ブランドが変わった背景を踏まえると、この挑戦は決して不自然なことではないように感じる。「たいしたことはできないかもしれない。それでも、手で書くことを続けてきた私たちだからこそ、挑戦する価値はあるんじゃないかなと思っています」 あくまで目的は手帳を作ることではなく、成長を願う人々に寄り添うことで、手帳はそのための手段なのだ。だが手帳のデジタル化が進む一方で、改めて“手で書くこと”の重要性も見直す流れが生まれている。「学校ではGIGAスクール構想が進み、いろんなものがデジタルに置き換わっています。だからこそ先生たちは、学生に“手で書く”ことをさせたいんだ、とよくおっしゃっていますね」現代の学生は生まれたときからデジタル環境で育っているため、年々筆圧も薄くなってきているようだ。 『NOLTYスコラ ベーシック』 中高生向けの手帳。持ち物、宿題、勉強時間などを書き込めるフォーマットになっており、手帳の書き方がわかりやすく説明されている。 改めて“手で書く”ということについて、郡山氏はこう語った。「書くという行為は人間のいろんな感覚を使うので、記憶の定着度も違います。今回開発したデジタルプランナーでは、手書き感にこだわっています。アナログでもデジタルでも、共通して“手で書く”という行為が再現できるといいですよね」 デジタル手帳とアナログ手帳は決して別物というわけではなく、“手で書く”という共通の作用がある。ほかにも、手帳を使ううえで大事なことはもうひとつあるようだ。「手帳を“開くこと”が大事です。1日のなかで手帳を開く機会が多ければ多いほど、学習時間が伸びたり、忘れ物が減るという弊社独自の調査結果が出ています。これはデジタル手帳においても共通している要素なのではないでしょうか」 ・アナログとデジタルの“いいとこ取り” アナログ手帳とデジタル手帳の共通点がわかったところで、現在はどのような手帳の使い方をするべきなのだろうか。「私自身手帳の会社に勤めていますが、スケジュールはほとんどスケジューラーで管理しています。ただ、いつまでに何をしなければいけないのか、タスクの逆算や、プロジェクトのフィードフォワードをする際は、手帳を使っていますね」 現在は、このようにデジタルとアナログの両刀使いという方法もあるようだ。「デジタルだと社員間で情報共有もしやすいですし、すぐに消すことができて編集作業も楽です。会議室を予約したりなど、副次的な効果もありますしね」 一方アナログ手帳の良さについては、こう振り返った。「頭のなかにある見えない情報や、いま考えていることを理解するために手書きをすることが多いです」一見デジタルでも賄うことができそうなことだが、そこで重要なのが先述した“手で書く”という行為だ。 「パソコンで打ち込むよりかは、手書きで書いた方がいろんな表現がしやすいと思うんです。私たちは手帳の会社ではあるのですが、絶対手帳だけ使ってくださいっていうことはまったくなくて、うまく“いいとこ取り”をしてくのが、現代の使い方かなと思います」手で書くという行為を再現しつつ、デジタルとアナログのいいとこ取りをしているのが、まさに今年4月から販売されたNOLTYプランナーズのデジタルプランナーなのだろう。 郡山氏も自身の生活スタイルに合わせて、デジタルとアナログのいいとこ取りをしているようだ。 「私はジムに通っているのですが、たとえば体重や筋肉量など数字で管理できるものはアプリに任せて、何のトレーニングをしたのか、そのとき感じたことなどは手書きで残すようにしています」 そして、最近アナログ手帳が再燃している背景には、SNSの発達もあるからではと郡山氏は語った。「いままでは手帳って、ひとりでひっそりと楽しむしかないものだったと思うんです。でもいまはSNSで、“他人の手帳の中身”を見ることができるようになりましたよね」 インスタグラムやTikTokで「#手帳」と検索すると、数え切れないほどの手帳の使い方が溢れてくる。単なるスケジュール管理ではなく、「理想の自分になる方法」や「メンタルケア」「人生の目標」など、数字や時間では表すことが難しい“心の深掘り”に活用している人が多いようだ。そして、シールや推しの写真で表紙を飾ったり、雑誌の切り抜きやマスキングテープでデコったりと、オリジナリティにも溢れている。「表現方法など、他者に共有したいところはSNSで発信して、日記のように心のなかを吐き出すときは、逆にアナログのみに留めておくこともできます」 見せたいところ、見せたくないところの使い分けがSNSの存在によって両立できるのも、現代ならではだろう。デジタルとアナログが混在している現代だからこそ、『なぜ書くのか』ということを改めて考える必要があるようだ。そして、自分に合った使い方でデジタルとアナログを選択していくことが、現代の手帳への向き合い方なのかもしれない。
はるまきもえ