公式戦4連勝勢いに乗るAマドリード、守護神オブラクやフリアン・アルバレスの得点力が復調の鍵
アトレチコ・マドリードは欧州サッカー界の中でも特に、そのアイデンティティーが知られているチームと言える。 13年前にシメオネが監督就任して以降、劇的に変化したチームは、レアル・マドリードやバルセロナという強豪がいるリーグにおいて、堅守速攻を武器に7タイトルを獲得し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝に2回進出するほどの成功を収めている。 ■今夏の補強額は305億円超 今季前半戦のサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)の3億1074万ユーロ(約512億7210万円)は、Rマドリード、バルセロナに次いで3番目。しかし、1億8500万ユーロ(約305億2500万円)を投じた今夏、スペインリーグで最も選手獲得に費やしたチームとなった。 4季ぶり通算12回目のリーグ優勝を目指すための補強として、今夏のスペインリーグ移籍金最高額となる7500万ユーロ(約123億7500万円)プラス出来高2000万ユーロ(約33億円)でアルゼンチン代表FWフリアン・アルバレスを獲得。さらにイングランド代表MFギャラガー、スペイン代表DFル・ノルマン、ノルウェー代表FWセルロートなど、ウイークポイントがうまくカバーできる補強を行った。 これによりサポーターの期待は大きく膨らんだ。しかし、夏の代表戦から続く過密日程によって選手たちがほとんど休む暇なく疲弊し、けが人が徐々に増加していったことや、大金で獲得した新加入選手たちの活躍が物足りないこともあり、徐々に取りこぼしが増えていく。 そして10月に入りチームに危機が訪れる。欧州CLでベンフィカに大敗(0-4)したのを皮切りに、公式戦5試合で1勝1分け3敗と成績不振に陥り、スペインリーグでは首位バルセロナとの勝ち点差が10に開いてしまう。第11節を終えた時点でここまで大差をつけられるのは、シメオネ政権後初めてのことだ。負の連鎖で欧州CLも2連敗を喫し、早々に厳しい状況に追い込まれた。 ■欧州CLでパリSGも破る しかし、スペイン3強と謳われるAマドリードはこのまま終わらない。この後、劇的な変化を遂げ、見るものを魅了していく。国王杯1回戦で6部ビクに2-0で勝利し、スペインリーグではラス・パルマス(2-0とマジョルカ(1-0)相手に2連勝を達成。欧州CLパリ・サンジェルマン戦(2-1)は敵地とあり圧倒的不利と予想される中“シメオネイズム”を存分に発揮。22本ものシュートを打たれながらも、GKオブラクを中心に失点をわずか1に抑え、最後のプレーでコレアがゴールを奪い、劇的な逆転勝利を成し遂げてみせた。今季初の公式戦4連勝と勢いに乗り、最高の状態で今月の国際Aマッチ期間を迎えている。 この4試合で“本来のAマドリード”らしさを思い出し、全盛期をほうふつさせる激しいディフェンス、相手に致命傷を負わせるカウンター、ハードワークや連帯感を取り戻した。 欧州CLではここまで4試合全てでゴールを奪われ9失点と守備が大崩れしているが、スペインリーグではここ2試合続けて無失点に抑え、13試合中7試合でクリーンシートを達成し、唯一失点数が1桁台(7失点)のチームとなっている。 この最大の功労者であるオブラクは、近年パフォーマンス低下により退団のうわさも報じられていた。しかし、今季ファインセーブを連発して復活を遂げている。特にパリ・サンジェルマン戦ではシュートを8本もセーブし、チームを勝利に導いた。スペインリーグでは最少の1試合平均0・58失点と、2番手につけるレミーロ(レアル・ソシエダード)の0・77失点をはるかに上回る成績で、史上最多6回目のサモラ賞(スペインリーグの最少失点率GK賞)に向け躍動している。 ル・ノルマンやジョレンテなど守備陣に負傷者が多発している問題に対して、シメオネ監督は当初控えだった選手をうまくチームに当てはめ、5バックから4バックに変更したことも大きく作用した。特に今夏放出候補とされていたハビ・ガランや、ジョレンテの陰に隠れていたモリーナが再び返り咲き、サイドバックとしての奮闘が目立っている。 ■センターFWの得点数が重要 シメオネ監督は常々、「本気でタイトルを争うチームとそうでないチームの違いは、センターフォワードのゴール数だ」と言っている。かつて所属したダビド・ビジャやジエゴ・コスタ、ルイス・スアレスがそうであったように、鳴物入りで加入したフリアン・アルバレスがここに来てようやく、かつての英雄たちのレベルにあることを証明し始めている。 序盤こそチームにフィットするのに苦しんだが、公式戦18試合を終えた今、チームトップの7ゴールを挙げ、21年のルイス・スアレス以来の高い得点力を発揮。さらに得点だけでなく“シメオネイズム”を体現すべく、前線からのハイプレスを怠らない点も評価されている。 今季1番のサプライズとなったのは、サラゴサ、アラベスでの2年間の武者修行を終えて戻ってきた、監督の三男ジュリアーノ・シメオネだろう。右サイドを主戦場に時にサイドバックも務めるポリバレントな能力や、ハードワークを武器にした活躍ぶりは目覚ましいものがある。ここ4試合連続で先発を飾り、1得点1アシストを記録して、その全てで高い評価を受けている。 その他、チームでパス本数トップのコケはゲームコントロールという点で欠かせない選手であることを改めて証明し、急成長を遂げるバリオスが中盤で存在感を高めてきていること、スーパーサブとして監督の期待にゴールで応えるコレアが勝利に貢献していることも好調の要因となっている。 ■グリーズマンも体調上向く 一方、グリーズマンは調子を落としていると若干問題視されているが、それでもここまで公式戦全18試合に出場し、4得点6アシストとチームで誰よりもゴールに絡んでいる。これに続くのはフリアン・アルバレス(7得点1アシスト)とセルロート(4得点2アシスト)だ。 数字だけ見れば十分な成績だが、これまでのパフォーマンスと比較した場合、本来のものとは程遠い。そのためクラブ内では、今月の国際Aマッチ期間がベストコンディションを取り戻す上で良いタイミングと考えられている。また、9月に代表引退を表明したことも今後、その点で大いに役立つだろう。 期待通りの実力を発揮し始めたAマドリードの今季ここまでの公式戦18試合の成績は、10勝5分け3敗、26得点16失点。今年も残り7試合となる中で、強豪との対戦はクリスマス休暇直前のバルセロナ戦だ。今の調子を維持しつつ、新加入選手たちも“シメオネイズム”をより共有できていけば、さらに面白いAマドリードが見られるに違いない。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)