【缶詰には人情も詰まっている】閉店した人気店の缶詰を復活させたのは「明太子で知られる」あの会社でした<福岡・中央区>
■トマトと野菜、肉が生み出す重層的な味
かくのごとし。豚ばら肉は大きな直方体で、脂身と赤身の境目から千切れてしまうほど柔らかい。ジャガイモ、ニンジンも大きく、ひと口では頬張れないサイズだ。それらの合間に見えるのは、柔らかく透き通ったタマネギとビーツである。 スープの味はトマトの旨味が基礎になっていて、そこに野菜と肉の旨味が重層的に加わっている。ほんのりした酸味と、後を引くような甘味。大きな具を食べつつ、パンをスープに浸して食べると、確かに1缶の半量で腹が満たされた。 それにしても、なぜふくやがボルシチの缶詰を復活させたのか? 同社は福岡県内を中心に直販店を展開している。直販店とはいえ、他社製品も扱う、いわばセレクトショップのような店なので、ツンドラが営業していた時代にはボルシチ缶も扱っていたそうだ。 また、ふくやの社員にはツンドラのファンも多かったと聞く。同じ地元の企業として(ふくや本社も福岡市)、かつての人気商品をふたたび世に送り出す、その手伝いをしたくなったのではないだろうか。 もしそうなら、かなりの情熱が必要だったはずである。何しろ、かつて製造を担っていたメーカーは缶詰事業から撤退しているのだ。まずは製造を引きうけてくれる缶詰メーカーを探し出し、交渉することから始めないといけない。旧ツンドラ経営者からはボルシチのレシピを正式に受け継ぎ、缶詰メーカーと供に試作を繰り返して、納得のできる味になってようやく発売に至るわけだ。 「福岡人は情に厚い」とよく言われる。それを地で行くようなストーリーであります。 ●今回の缶詰情報 ふくや「ツンドラのボルシチ内容量450g」 黒川 勇人(くろかわ はやと) 缶詰博士。1966年福島県福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界53カ国の缶詰をリサーチ。 缶詰にまつわる文化や経済、人間模様も発信している。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。「SDGs災害食大賞」「LOCAL FISH CANグランプリ」「未来の食卓アワード」審査員。 近著、初のエッセイ本『缶詰だよ人生は』(本の泉社)が絶賛発売中! 他『缶詰博士が選ぶ「レジェンド缶詰」究極の逸品36』(講談社)など。マイナビニュースに缶詰エッセイを連載中。
黒川 勇人