武田砂鉄、「政治は夜動くもの」に異論!──自民和歌山、懇親会口移しチップ問題
自民党和歌山県連の会合に女性ダンサーが招かれ過激な演出が行われた問題。ライターの武田砂鉄が斬り込む。 【写真を見る】岸田首相は、もはや火だるま状態?
「多様性」を言い訳に盛り込んだが
昨年11月、和歌山市のホテルで開かれていた自民党の青年局近畿ブロック会議の懇親会に、露出の多い女性ダンサーが登場、参加者が口渡しでチップを渡すなどしていたことが発覚した。限られた写真と映像しか明らかになっていないが、その様子を見て、まず、「こういう光景が繰り広げられたことについて、その場で誰も苦言を呈さなかったのか」と疑問に思う。 もちろん、その場に招かれた女性ダンサーたちは問題ではない。要望に応じて、仕事をまっとうしただけである。「女性ダンサー問題で自民内から批判多数、後任の鈴木貴子青年局長『火に油を注ぐ事態で心苦しい』」(読売新聞オンライン)といった見出しの記事もあるが、女性ダンサーは問題ではない。問題は、こういった懇親会を開いた議員たちである。 年をまたぎ、3月になって発覚している。逆に言えば、4カ月間はバレなかった。この4カ月間といえば、自民党とカネの問題が継続的に問題視され、内閣支持率や政党支持率が軒並み下落を続けた。あの場に出席していた議員は「こないだのアレがバレたら、結構マズイことになるんじゃないか」とヒヤヒヤしていたはず。バレた時の対応をシミュレーションしておくべきだったが、懇親会を企画した和歌山県連青年局長・川畑哲哉県議は、女性ダンサーを招いた理由について、「多様性の重要性を問題提起しようと思った」と語った。 「多様性」を言い訳に盛り込んでみせた。今、流行っている言葉を使うと、もしかしたらどうにかなるんじゃないか、と思ったのかもしれない。どうにもならない。でも、どうにかなるんじゃないかと試みた心意気だけは残る。
この県議がこれまでどのような働きをしてきたのかを知らなかったので、和歌山県議会の会議録を読んでみた。「平成29年12月 和歌山県議会定例会会議録 第5号(川畑哲哉議員の質疑及び一般質問)」にはこのようにある。 「政治と恋愛は、夜、動くものでございます。つまり、恋愛の文化レベルを高めることと夜の経済活性化には密接な関係がございます。本県でも、婚活事業など出会い創出支援に取り組まれています」 「ことしの2月定例会における予算委員会で私も指摘させていただきましたが、出会いを創出するには、極めて上質なおせっかいが必要な時代に入ってきていると思います。第三者が積極的に当該男女の背中を押していくべきだと私は考えております」 「歓楽街やナイトスポットをつくるということは、まず民間の事業者の皆様に頑張っていただかなくてはいけませんが、そんな事業者同士がチームをつくられて、例えば、おもてなしアドバイザーの派遣を要請されて、おもてなし力を皆様で向上させるということも効果的かと考えています。まずはコミュニケーションから、和歌山でのすばらしい思い出づくりのリズムをつくっていただき、客のニーズにかなう対応を重ねていただくことでリピーターもふえると思います」 この日の彼のメインテーマは「夜の経済活性化」。もちろん、地域住民や観光客に、夜の時間帯に街を出歩いてもらい、地域経済を活性化させることは重要。新型コロナウイルスの感染が拡大した際、小池百合子都知事が「夜の街」と名指したような感じで、「夜の経済」に偏見を向けてはいけない。だが、引用したように、彼は、夜の経済の重要性を語りながら、それによって、「恋愛の文化レベルを高める」ことができ、「婚活事業」の成果にも繋がってくると提言している。 歓楽街やナイトスポットをつくり、そこで働く人たちの「おもてなし力」を向上してもらい、「思い出づくりのリズム」をつくる。ちょっと意味がよくわからないが、この意味のわからなさを知ると、先日の言い訳のわからなさ、つまり、「多様性の重要性を問題提起しようと思った」と言い訳する感性だけはわかる。わかる、というか、彼の言っていることのわからなさがわかる。 「政治と恋愛は、夜、動くものでございます」、恋愛がいつ動くか知らないし、人それぞれだと思うが、政治は夜動かしてはいけない。県議会議員だろうが、国会議員だろうか、政治は日中に動かさなければいけない。この懇親会の模様がバレてしまったのは、3月8日、奇しくも国際女性デーだったが、ジェンダーギャップ指数が改善しない日本の問題点の一つが、政治の現場に女性が進出しにくい点。その構造が維持されているのは「政治が夜動くもの」になっているからこそ。こうして、県議の言動をほんの少しだけ掘り下げるだけで、なぜ日本の政治が変わらないのか、変わろうとしていないのかが見えてしまった。
武田砂鉄 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。 編集・神谷 晃(GQ)