石丸伸二氏はなぜ蓮舫氏に勝ったのか?都知事選で激的に変わった“戦い方”
蓮舫の言葉はなぜ響かなかった?
一方、蓮舫について言えば、「小池に敗れた」と言うより「石丸に敗れた」と言う方がしっくりくる。小池都政の問題点を指摘する演説も熱量では負けていなかったが、「神宮外苑の伐採」と言ってもしょせん自分の庭じゃないからなあ。なかなか自分ごとに感じられない。 その点、2年前の東京・杉並区長選挙は違う。『映画 〇月〇日、区長になる女。』で描かれたように、住民に立ち退きを求めてまで道路建設を進めようとする当時の区長に人々が怒った。それが「自分たちの代表を区長に」という“夢”を巻き起こし、押し立てられた岸本聡子が現職を僅差で破り初当選した。世の中を変えたい、変わりたいと願う人がじわじわ増えているように感じられる。そういう人々の思いを都知事選で汲み取ったのが、蓮舫ではなく石丸だったということだろう。 ただし、蓮舫が出たからこそ都知事選は盛り上がったと言える。敗戦の弁を語る時、左手首に見えたバングルという腕輪のアクセサリーは、台湾の人がよく身に着けているものだろう。多様性を象徴する都知事の誕生も見てみたかった。
選挙では「政策は二の次」という現実
選挙では実は政策は二の次でいいのだと思う。人々が求めるのは“夢”だ。今より暮らしがよくなる、いいことありそうだという夢。安倍政権が長続きしたのは「アベノミクス」という“夢”を有権者に見せることに成功したからだろう。夢がまっとうかどうかではなく、夢を見せられるかどうかが問われる。 ちなみに大阪維新の会は「大阪都構想」という“夢”を長年大阪の有権者に見せてきたが、近年「万博・カジノ」という“夢”が掛け声倒れの“夢物語”に終わりそうな雰囲気が漂う。大阪府民が夢から覚める時が近づいているのではないかと感じられる今日この頃だ。
「無謀な賭けだね、これは」
さて、石丸が狙い通り躍進したのを一番喜んでいるのはもちろん奥山だ。わずか5か月で映画を一般公開に間に合わせるため、監督も俳優の多くも、元になった舞台から起用し、突貫作業で制作を進めている。 「それで映画は完成したんですか?」と私。 「いや、まだだね。完成予定は8月25日だから」 しれっと口にする奥山。 「それって公開の5日前ってことじゃないですか」 「そうだね。無謀な賭けだね、これは」 石丸が都知事選という“無謀”とも見える賭けに実質勝ったように、奥山は石丸を描く映画という賭けに勝てるのか? 選挙戦と映画作りが連動し、フィクションの様な現実とノンフィクションのような虚構が交錯する。「事実は小説よりも奇なり」を地で行く、まさに現在進行形の政治エンタメ活劇だ。 <取材・文/相澤冬樹> 【相澤冬樹】 無所属記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)、『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)など
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