「探索」とは何か?
2020年に『新 コーチングが人を活かす』という本が出版されました。この本は、2000年に出版された『コーチングが人を活かす』の改訂版です(※1)。 このときの改訂における一つの特徴は、「引き出す」という言葉を削除し、「探索」という言葉が使われたことです。 私はこの18年にわたり、コーチングの世界に身を置き、研鑽してきました。私がコーチングを提供し始めた頃のコーチングの定義は「相手の自発的な行動を引き出すコミュニケーションの技術」というものでした。 18年を経て「引き出す」ではなく「探索する」に。 この変化は、クライアントと私の関係性、そしてそこで起きるケミストリーに大きな変化をもたらしていることを実感します。 今回は「探索」について「探索」してみたいと思います。
コーチングは質問し続けることではない
社会心理学者のケネス・J・ガーゲンによる『現実はいつも対話から生まれる』という本があります。この本を監訳したコーチ・エィの創業者 伊藤守は、まえがきでこう書いています(※2)。 ----- 「(ケネス・ガーゲンは)人は対話(ダイヤローグ)を通して意味をつくっていくのであり、『言葉が世界を創造する』と述べて社会構成主義に新しい価値を与えました。 ガーゲンは心理学者として、『治療者』と『患者』という固定した役割のもとにセラピーが行われ、治療者の頭の中にある『正常な』状態へ患者を導くのではなく、対話を通して二人の間に新たな現実を創り出すことを提唱しました。 私はコーチングを専門としていますが、 この分野でも長い間『コーチ』が『クライアント』 からアイデアを『引き出す』 という捉え方がされていましたので、ガーゲンの考え方は非常に新鮮で、大きな影響を受けました。現在はコーチとクライアントが対話を通して新たな現実を創造するという方向にシフトしています。」 ----- さらに、私自身がコーチとして大きな影響を受けたエグゼクティブコーチであるマーシャ・レイノルズ氏は、その著書『変革的コーチング』の中でこう述べます(※3)。 ----- 「コーチングとは『探求』のプロセスであって、質問をし続けることではありません。『探求』をするのは、解決法を探すためではなく、クライアントに自身の思考に対して批判的な目を向けさせるためです。」 -----