くじ引き選出の市民で温暖化対策提言 「杉並区気候区民会議」に見るシン・民主主義
「杉並電力」「ライトレール敷設」…斬新な提案が次々と
発表の時間では、各グループがワークシートの内容を元に、この日の成果を参加者全員に共有します。 「エネルギー」の中で「地域における再エネ」をテーマに検討していたグループが目標に掲げたのは、「杉並区内の電力を100%、できれば120%再エネでまかなえるようにする」こと。具体的な取り組みとして、こんなアイデアが語られました。 「エネルギーの地産地消として、さまざまな家に太陽光パネルをつけるというやり方がありますし、自力で発電しきれない分は姉妹都市などから購入し、人的交流もしながら再エネの電力を増やしてもらうことを考えました。再エネを推進・供給する『杉並電力』というバーチャルな企業をつくって、区民が社員のようなかたちで支えていく参加型の仕組みをつくるのもいいのではないでしょうか」 「交通」の中で「人と多様なモビリティーの共生」をテーマとしていたグループは、杉並区ならでは課題を踏まえたプランを提案していました。区内をJR中央線や京王井の頭線などが通るため東西に移動しやすい一方、鉄道がない南北間の移動が不便だというのです。自動車の交通量を減らすことを前提に、次のような解決策が提案されました。 「南北移動も省エネでということで、南北に走る環状八号線沿いにライトレールや地下鉄を通したらいいのではないかという案が出ました。すぎ丸(区営の南北バス)を強化して、いま1台しかないEV車両を増やし、路線数も現状の3つから増やせないかと考えました」 他にも、「循環型社会」のテーマでは、アップサイクルや修理ができる拠点をつくり、杉並区とゆかりのあるアーティストなどともコラボしていく、といった案が。「みどり」のテーマでは、緑を増やそうとしても多くの区民は「緑被率」といった指標や現状が何%なのかも知らないから、広報や小学校の授業などを通じて周知する、といった案が出ていました。 こうして出そろった様々なアイデアは、7月6日の第5回の会議でさらに深められ、8月3日に行われる最後の会議で、各テーマごとの提案が取りまとめられます。その後、各提案について区の部局横断組織である気候危機対策推進本部で検討された後、今年度中には区のとしての判断が公表される予定です。 岸本聡子区長は第1回の会議で、「皆さんが話し合ったことをどのように政策につなげていけるか、その課題にまっすぐに取り組んでいきたい」と前向きに語っていました。ただ、今回の会議で出てきたアイデアの中には、ユニークな発想ながら予算などの面で実現が難しいのではないかと思えるものもあります。 この点について、有坂課長はこう説明します。 「区民の方々からのご意見は大切に受け止めつつ、その中で現実に何ができるのかについて、予算や政策面での優先順位なども含め、5、6回目の会議で専門家の方々のアドバイスも受けながらブラッシュアップしていければと考えています。また、政策に反映するうえで予算が必要なものについては、区議会にも諮ったうえで判断することになります」 まだまだ日本人にはなじみの薄いミニ・パブリックスは、新たな政治参加の方法として普及していくのか。杉並区での今後の展開だけでなく、今後の他地域への広がりも注目されます。参加者の40代の会社員女性は、この日の会議を終えて次のような感想を語っていました。 「専門家の方々や区の職員がきちんとサポートしてくれるのでデータに基づいた議論ができているし、私たちの意見がアウトプットとして残ることにはやりがいを感じます。選挙で投票するよりも、もっとダイレクトに政治に関われているという納得感があります」
朝日新聞社