「多分、僕はSMAPが解散したときに『死んでしまった』のだと思います」作家業引退の鈴木おさむが直面した“40代の闇”とは?
鈴木おさむ#1
鈴木おさむ氏が、3月末で放送作家業を引退する。新刊『仕事の辞め方』(幻冬舎)を上梓し、作中で提唱する「ソフト老害」はXでもトレンド入りし、話題になった。脚本を務めたドラマ『離婚しない男』も大ヒットして終わったが、鈴木は、なぜ今仕事をやめるのか。話を聞くと「40代の生きづらさ」が浮き彫りになった。 【画像】作家業引退の鈴木おさむが直面した“40代の闇”
自分が加害者側になっていた
––––秋元康さんとの対談本『天職』(2013、朝日新書)で、鈴木さんは「放送作家が天職」「ほかの仕事は向いてない」と語られていました。この10年でどんな心境の変化があったのでしょうか? (鈴木おさむ、以下同) 秋元さんと対談したとき、僕は39歳かな……。あのとき、秋元さんに「40代はどんなふうに過ごしましたか?」と聞いたら「しんどかった」と言われました。いろんな方からこの手の話を聞いていたので覚悟はしていたんですが、想像以上にしんどかったですね。 ––––なぜでしょう? キャリアを重ねると、裁量を持って仕事ができそうですが。 30代のころは「結果を出せば決定権を得られる」と思っていたのですが、実際40代になってわかったのは「自分には裁量がない」ということです。経営陣やさらにその上の層の「ラスボス」がいる。その中で自分は管理職のような仕事が増えて、会社の内情とか利益も考えなきゃいけなくなってくるんですよ。 若い子には「おもしろいことをやろうぜ」と言ったりもするんですけど、結局「上の意見」を優先して、結果、若手の意見を潰してしまうことも多かったように思います。これが「ソフト老害」です。 ––––本書で提唱されている「ソフト老害」ですね。ネットでも話題になっています。 僕自身、40代になりたてのころは自意識が若手側だったので、自分は「老害」から苦しめられる被害者だと思っていたんです。でも、若手の受け取り方は全然違っていました。 本にも書きましたが、いくつかの番組で一緒に仕事をしていたディレクター・三谷(三四郎)くんが「自分たちが一生懸命考えてきた企画が、鈴木おさむさんのような立場の人のひと言でなくなることが多かった」とYouTubeで話していたんです。彼はいいヤツなので、公開前にその動画を僕に見せてくれたんですけど……それを見て、自分が加害者側にいたんだと気がつきました。 ソフト老害って、その度合いが高い人ほど、自覚するのが難いんですよね。「こういう人いるよね」と笑っている人に限って、ソフト老害だったりする。僕は三谷くんの動画を見て「今の自分がドラマの登場人物だとしたら、嫌なキャラだ」と痛感しました。 ––––ドラマのキャラだと考えれば、客観視できますね。 これは僕だけに限ったことではなく、会社勤めの人も同じ。周りからは「価値観が古い」とか「現実を見ろ」とか言われるし、自分からソフト老害的な振る舞いも出てくる。40代って対外的に見て「1番胡散臭い」ように見えるんだと思います。 本当の決定権は持ってないのに、経歴の長さから微妙な立場になっている。放送作家を辞める動機のひとつには、そういう自分の立場を捨てたかったことがあります。