NHK「未解決事件」、SNSで犯人を割り出せるか?
生放送中だけで3000件のリアクション
未解決事件は全国に約380件あると言われ、番組では時効撤廃によって「事件を未解決のままにしておくことが許されない時代になった」と位置づける。中村プロデューサーは「2012年にオウム事件を放送したあと情報提供が増え、放送することでものが動くという実感がありました」と話し、スピンアウトはこの手応えから生まれた。 番組制作にあたっては、昨年秋から取材メモを読み直し、目撃情報をもとに聞き込み取材もした。世田谷の事件に関しては、血のついた男が新幹線に乗っていたという一般視聴者の証言、左手に血痕があった男を見たという警察もつかんでいる証言が掘り起こされた。「事件と関係があるか分かりませんが、呼びかけてみると新事実は出てくるのです」と中村プロデューサーは話す。 草なぎ剛さんらの呼びかけに対し、電話やSNSを通じて、生放送中だけで3000件の意見や情報が寄せられた。放送当日、事件に精通した警視庁担当の社会部記者ら30人が対応にあたった。寄せられた情報の確度が高いのかどうかを判断するためだ。対応にあたった記者らが情報提供者と直接話をし、情報の確からしさを確認した。加えて、SNSの性格に応じて、どう放送に活かせるかという手応えが見えてきたという。
SNSの可能性と限界とは
情報提供3000件のうち2000件はツイッターで、番組の感想が大半だった。直接的な情報提供には貢献しなかったが、「番組が情報提供を呼びかけている」という場を広げることに貢献した。LINEは1対1のコミュニケーションが可能。クローズドで直接的なユーザーとのコミュニケーションが可能なため、より深い情報を知りたいときのコンタクトが容易だ。Facebookは番組からの呼びかけや動画情報の伝達に力を発揮した。 寄せられた情報全体のうち110件は具体性があり、30~40件は取材を進められるほど確度の高い情報だった。しかし、集まった情報はそのまま公開できない。報道は、インターネットのまとめサイトのノリとは違う。人の命を扱う報道番組なのだから、真偽不明な情報を右から左に流すわけにはいかない。 非常にオープンなコミュニケーションができるツイッターでは、犯罪に関する不確かな情報が拡散する恐れもあり、結果としてSNSで寄せられた情報は、すべてメールに集約された。そこにSNSの可能性の限界があったとも言える。「さらに外部の企業が提供するプラットフォームを使うと情報が漏れるリスクもあり、SNSの利用は試験的なものでした」(中村プロデューサー)という側面もあった。 警察も新たな捜査方法を警察も模索している。番組でも取り上げた警視庁の新しい捜査手法「公開捜査プロジェクト」だ。犯人の顔写真をSNSで流し、情報提供をユーザーに呼びかける。始まって3年。81件をSNSに掲載し、33件で逮捕事例があったとしている。 4月5日には、番組でも取り上げた詐欺グループの男が逮捕された。男は「写真が公開されていることはインターネットを見て知っていた。逃げ切れないと思った」と供述したという。中村プロデューサーは「警察も捜査情報を出さないことが前提でしたが、これが変わってきています。捜査のありようだけでなく、報道のありようも変わってきています。新しい手法を組み合わせながら、事件の記憶を掘り起こしたい」と話した。 NHKスペシャル 未解決事件