『ブギウギ』水上恒司が表現する強い意志 どうか奇跡が起きてほしいと願う幕引き
『ブギウギ』(NHK総合)第84話では、スズ子(趣里)と愛助(水上恒司)が出産予定日まで10日となっても会えないままでいた。愛助に何かあったのではと不安に思うスズ子は「大阪に……行ってきてもよろしいでっしゃろか?」と村西(中川浩三)と東(友近)に聞く。 【写真】陣痛の中、病院に向かう支度をするスズ子(趣里) 村西も東もスズ子が大阪に行きたい気持ちに寄り添うが、スズ子はいつ陣痛が始まってもおかしくない状況にある。「もうすぐで帰れると思います」という手紙が来るだけで、愛助は一向に東京に戻ってくる気配がない。痺れを切らしたスズ子は、山下(近藤芳正)を問い詰めた。 病床に伏す愛助は見るからに容体が悪い。けれど、スズ子を強く思うことで懸命に病気に立ち向かおうとしている。トミ(小雪)の秘書・矢崎(三浦誠己)は、スズ子と愛助を慮り、どうにかして2人を会わせようとトミに掛け合うのだが、愛助自身がそれを拒む。 「今の……僕の姿を見たら……スズ子さんは心配しておかしなってまうわ」 「安心して赤ちゃん産んでほしいねん……。せやから……絶対ないしょや」 「必ず病気治して、スズ子さんと子供に会うんや……」 苦しげな息遣いに心苦しくなるが、その言葉一つ一つから愛助の強い意志がひしひしと伝わってくる。 愛助の状況を知らされないスズ子にとっては、どちらにせよ気がかりだ。だが、トミも矢崎も、坂口(黒田有)も山下も、スズ子に何も知らせなかったのは愛助の気持ちに寄り添っていたからこそ。けれど山下がつい口をすべらせ、愛助の現状をスズ子に伝えることになった。スズ子は当然動揺するが、山下と坂口は必死に愛助の思いを代弁する。 「ボンはそんな姿を福来さんに見せたないんです。分かりますやろ? ボン、絶対にようなろうと思って頑張ってますねん! そやから福来さんもここは辛抱して出産のことだけ考えましょう」 「ボンの気持ち、分かったってください」 山下と坂口の言葉を通じて愛助の思いを受け止めても、愛助を心配に思う気持ちがなくなるわけではない。スズ子が家で1人、力なくへたり込んだ姿に胸が痛む。どうすればいいのか分からなくなったスズ子は麻里(市川実和子)を訪ねた。麻里はスズ子の話に耳を傾け、自分も子供を出産する時にいろいろと不安だったこと、その時小さな支えになったのがお腹の中にいた我が子であったことを打ち明けた。麻里の言葉に少しだけ救われたスズ子に、麻里はこう伝えた。 「つらいでしょうけど、今は無事出産することだけ考えていいんじゃないかしら。それが愛助さんの望みでしょうし」 その頃、愛助はスズ子に手紙を綴っていた。病気で弱った体を懸命に起こし、一心に手紙に向かう愛助の姿にはスズ子と子供になんとしてでも会いたいという強い気持ちが感じられた。しかしその弱々しい体の運びと、激しく咳き込み、血を吐く姿が最悪の結末を予感させる。 愛する人の望みを受け入れたスズ子は、愛助の残していった羽織を抱きしめると「神様……どうか愛助さんをお守りください」と強く願う。お腹の中にいる子供のために気丈に振る舞うスズ子だが、「この子もお父ちゃんに会いたい言うて待ってるで。絶対ようならんとあかんで」と愛助を思うその目からは涙が溢れ落ちる。 スズ子と愛助は希望を失っていない。どうか奇跡が起きてほしいと願う幕引きとなった。
片山香帆