小さなアリに魅せられて 元報道カメラマンが北九州市で写真展
元報道カメラマンで写真家の藤脇正真さん(55)の作品展「restart(リスタート)」が、北九州市小倉北区のリバーウォーク北九州で開かれている。会場の5階市民ギャラリーには、新聞社を退職してから1年間に撮りだめた約50万カットの中から、アリや花、風景など厳選した約100点が並んでいる。入場無料。10月29日まで。 【写真】藤脇さんの作品
飾ってもらえる一枚を
朝日新聞のカメラマンとして、事件・事故など緊迫した現場を撮り続けてきた藤脇さん。紙面に掲載される”ニュース写真”ではなく、「家に飾りたいと思ってもらえるような一枚や、人に喜んでもらえる作品を残したかった」と話す。
会場でひときわ目立つのは、花びらをキャンバスに小さなアリを撮影した作品だ。90ミリのマクロレンズを使い、気配を消して被写体から10センチほどの距離に迫り、体長数ミリの生き物が躍動する姿に光を当てた。訪れた人たちから「すごいね」「どうやって撮ったのかな?」と驚きの声が上がる。
青い花びらの縁を歩くアリを写した作品は、藤脇さんも気に入っているという一枚だ。今にも息づかいが聞こえてきそうなアリと、鮮やかな花々が織りなす自然界の日常が、繊細に表現されている。そのものたちが放つ最も美しい瞬間を、逃さずありのままに撮りたいという明確な意思が伝わってくるようだ。
宝石のように輝く生命
3日に1度はカメラを手に北九州市内の公園や植物園を中心に撮影しているという。特にアリについては、「目のしま模様がはっきり分かるくらい」の細やかな描写にこだわった。動きが素早いアリにピントを合わせるのは至難の業だ。肉眼では捉えづらい瞬間を、1000分の1秒のシャッタースピードで切り取った。アリの目にピントがぴたりと合っているコマは、500枚に1枚程度しかないそうだ。
1回の撮影で8000コマを超えることもある。それでも作品として成立するのは、そのうち1、2コマしかないという。花の上を闊歩(かっぽ)するアリを撮るために、1時間ほど地面にはいつくばったり、しゃがみこんだり。「あなた、何しているの?」。周囲から向けられる怪訝(けげん)な視線を背中に感じながら、撮影を続けるのは「なかなか大変だねぇ」ともらす。