「越えてはならないレッドライン」中国総領事が台湾総統就任式に出席の国会議員に送った猛烈抗議書簡
■ 呉大使も過激発言で日華懇側も抗議文発信 台湾の頼総統就任に関しては、呉江浩駐日中国大使も5月20日、都内の中国大使館で開いた座談会で、日華懇の国会議員が同日の台湾・総統就任式に出席したことをめぐり「台湾独立勢力に公然と加担するものだ」と批判。「日本が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」などと発言している。呉大使は去年4月の記者会見でも同様の発言をしていた。 これを受けて外務省では、岡野正敬事務次官が呉大使に「極めて不適切だ」と直接抗議。上川陽子外相も衆院外務委員会で「2度にわたる発言は極めて不適切であり、外交ルートを通じて厳重な抗議を行った」としている。 委員会では呉大使が外交官として好ましくない人物「ペルソナ・ノン・グラータ」に該当するとして「国外追放すべき」との質問も出たが、上川外相は「予断をもって答えることは差し控える」と述べるにとどめた。 一方、日華懇は5月31日、会合を開き、「呉江浩大使の常軌を逸した発言は極めて不適切で、断固抗議する」とした抗議文をまとめ、中国大使館に送った。 文中では薛剣氏の書簡についても併せて抗議しており、日華懇の古屋圭司会長(自民党、元国家公安委員長)は「常軌を逸した内容で、看過できない。われわれは強く厳重な抗議をして、先方にしっかり伝えたい」と表明した。 薛氏の書簡を受け取った和田有一朗衆院議員も「脅迫まがいの内容で、台湾住民の意思を無視した考え方だ」として、中国の主張による台湾海峡の緊張を念頭に日台関係強化の必要性を訴えている。
【薛剣氏が送った書簡の全文】 報道によりますと、先生は国会議員として、台湾地区で新たに当選した指導者の所謂「就任式」に出席したとのことです。公職者である先生の台湾訪問は、中日の四つの政治文書の原則と精神及び台湾問題における日本側の厳粛な約束に著しく反するもので、「台湾独立」分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するものです。中国側はこれに対し、断固として反対し、強く抗議します。 台湾地区の民進党は発足初日から、根っからの「台湾独立」を企む分裂組織であります。民進党は政権担当期間中、「台湾独立」という分裂の立場を頑なに固執し、「92共通認識〈コンセンサス〉」を歪曲・否定し、島内で「脱中国化」を推し進め、「漸進的台湾独立」を行い、両岸の交流・協力を破壊し、外部勢力と結託して「独立」を図り、挑発を企ててきました。特に「実務的な台湾独立工作者」と自称する頼清徳氏は、極めて頑固な「台湾独立」を掲げる頑迷分子です。頼氏がリードする民進党当局が島内で引き続き政権を担当することは、平和統一の未来を破壊し、平和統一の空間を圧迫するだけで、両岸関係の情勢はより複雑で厳しくなります。 一つの中国原則は国際関係の基本的な準則と国際社会のコンセンサスであります。中日国交回復にあたって、日本側は一つの中国の原則について中国側に厳粛な約束をし、台湾とは「非公式な実務関係」のみを維持することを表明しました。日本側は今まで、両国間の重要な場で「台湾独立」を支持しないと繰り返して明確に表明してきました。日本側が「台湾独立」勢力とのいかなる公的な付き合いや交流は約束違反であり、「台湾独立」分裂勢力の肩を持ち、中国統一の大義を妨害する行為になります。 台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、越えてはならないレッドラインであり、中日関係の政治的基礎と両国間の基本的信義にかかわっています。先生に公職者として、「台湾独立」勢力が両岸関係ないしアジア太平洋地域の平和と安定への深刻な危害を十分に認識し、中国の主権と領土保全を確実に尊重し、中日の四つの政治文書の原則と精神及び日本側の厳粛な約束を厳守し、台湾に関する問題を慎重かつ適切に対処していただきたいです。台湾といかなる接触と往来もせず、中国人民の「台湾独立」に反対し、国家統一に努める正義の事業を理解・支持し、実際の行動を以て中日関係の大局を守っていただくよう強く希望しております。 中華人民共和国駐大阪総領事 薛剣 2024年5月24日 【吉村剛史】 日本大学法学部卒後、1990年、産経新聞社に入社。阪神支局を初任地に、大阪、東京両本社社会部で事件、行政、皇室などを担当。夕刊フジ関西総局担当時の2006年~2007年、台湾大学に社費留学。2011年、東京本社外信部を経て同年6月から、2014年5月まで台北支局長。帰任後、日本大学大学院総合社会情報研究科博士課程前期を修了。修士(国際情報)。岡山支局長、広島総局長、編集委員などを経て2019年末に退職。以後フリーに。主に在日外国人社会や中国、台湾問題などをテーマに取材。東海大学海洋学部非常勤講師。台湾発「関鍵評論網」(The News Lens)日本版編集長。著書に『アジア血風録』(MdN新書、2021)。共著に『命の重さ取材して―神戸・児童連続殺傷事件』(産経新聞ニュースサービス、1997)『教育再興』(産経新聞出版、1999)、『ブランドはなぜ墜ちたか―雪印、そごう、三菱自動車事件の深層』(角川文庫、2002)、学術論文に『新聞報道から読み解く馬英九政権の対日、両岸政策-日台民間漁協取り決めを中心に』(2016)など。日本記者クラブ会員。日本ペンクラブ会員。ニコニコ動画『吉村剛史のアジア新聞録』『話し台湾・行き台湾』(Hyper J Channel)等でMC、コメンテーターを担当。
吉村 剛史