月の南極地域は地震と地すべりのリスクあり 興味深い探査候補地に災害リスク
■南極地域には地すべりの高リスク地域があることが判明
Watters氏らは2019年の研究の続きとして、月の表面を覆う「レゴリス」が大規模な月震で崩れる可能性を推定しました。レゴリスは微小隕石や太陽風によって細かく砕かれた鋭い形状の砂状物質で、お互いの結合力が弱く、レゴリスに覆われた月の表面はとても崩れやすいものとなっています。 Watters氏らはN9事象の規模をマグニチュード5.3と仮定し、月の表面地形や斜面の角度、レゴリスの結合力を元に、N9事象と同じ月震が起きた際の揺れと地すべりの評価を行いました。その結果、震源からの距離が40km以内では強い揺れに襲われる一方、50kmを越える場所でも中程度から弱い揺れに襲われることが分かりました。そしてそのような弱い揺れであっても、レゴリスで覆われた斜面は容易に地すべりを起こすことが分かりました。 これは、南極地域を調査する将来的な探査計画において懸念事項となるかもしれません。例えば、アルテミス計画の着陸候補地は今回推定された震源域や崩れやすい斜面に対して近い位置にあります。また、地球の地震の揺れは長くても数分しか持続しないのに対し、月の表面で起こる月震の揺れは数時間を超えて続くことが珍しくありません。そして永久影のように科学調査や資源採掘が予定される場所は、地すべりを起こしやすい斜面に位置しています。マグニチュード5程度という規模の大きさ、長時間にわたる月震の揺れの長さ、そして地すべり発生の恐れは、長期間または恒久的に月面に滞在する人々や機材にとってリスクとなり得ます。 ド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖と似たような断層崖や地形は、月面のあちこちに存在します。また、短期間に月震が複数記録されたことや、断層崖の地形的な新しさは、大きな月震がかなり頻繁に起きていることを示しています。長期間の運用が計画される将来的な月探査計画では、地震や地すべりが計画を妨げる負の事象として検討されるようになるかもしれません。 Source T. R. Watters, et al. “Tectonics and Seismicity of the Lunar South Polar Region”. (The Planetary Science Journal) Thomas R. Watters, et al. “Shallow seismic activity and young thrust faults on the Moon”. (Nature Geoscience) Georgia Jiang. “The Moon is Shrinking, Causing Landslides and Instability in Lunar South Pole”. (The University of Maryland)
彩恵りり